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華やいでいた広場は、静まっている。聴衆は悲劇を見ていた。哀れな夫と彼女の人生。それを追体験しているのだ。
婦人は国王の前までくると、自分が確かに夫を殺したことを告げた。
「いや、わからぬ。我には疑問が残っているぞ」皇帝は興味深そうに彼女を見ている。
「自殺をすることまでは分かった。理由はおそらく研究の成果が伸び悩んでいたことだろう。だが、なぜナイフを突き立てる必要があったのだ。二人で睡眠薬を飲み、中毒死する。これで十分ではないか」彼女はうつろな目で国王を見ている。
「答えよ、何故、夫にナイフを刺したのだ」暫くののち、彼女はぽつりと自分の心境を語った。
「私たちは、出会う時間こそは少なかったけれど、深く愛し合っていました。夫も私が一番と、会うたびに言ってくれて、それだけで、私は救われる気分になるのです」彼女はこの状況でも幸せそうに笑っている。
「ある時、夫が研究に失敗続きで、悩んでいたことがあったのです。私も一生懸命励まし続けたのですが、そんな日がどんどんと増えていって、夫から提案されたのです。心中しないかと」話しが陰ってくる。
「最初は戸惑いました。けれど、私も幼い頃に両親を失っていますし、この世には未練はありませんでした。それに、夫が頼ってくれるのです。君しかいないと。私はすっかりその気になって、心中の準備に熱を注いでいきました」
「そんな決行が迫ったある時。いつものように夫を尋ねると、信じられないくらい活力に溢れていたんです。何かあったのかと聞くと嬉しそうに話すんです」
あの子の誕生日が近いんだ。約束したんだよ。一緒に祝おうって。
「私は思い知りました。一番大事なのは私ではないのだと。その時、怖くなったんです。大事なものがある夫と夫しかいない私。急に誰も知らないところに置いて行かれてしまったみたいで、不安と孤独でいっぱいになって」
「だから私、あの人の隣にいられるように、殺したんです」
事件の解決から暫く経ったある日。僕たちは再び国王に呼び出されていた。えらく上機嫌に話す王は僕たちに褒美を授けると同時にまた事件が起こった際、探偵をしろと命令を下した。帰り際、先生は国王に質問する。
「どうして私に捜査をさせるのです。警察だけで充分ではないですか」
国王は不思議そうに先生を見た。
「お前も可笑しな事を聞く。ただ私は知りたいのだ。残虐な犯行の裏にある人間の本性を。警察の仕事は犯人の逮捕。そして秩序を守ることにある。その点で全く役割が違う。分かるだろう。貴様が選ばれた理由が。人間の心理を研究している貴様なら、まさに私の願望を叶えてくれるのにぴったりではないか」
人の裏を見たい。それを見て、愉悦に浸りたい。それはなんて残酷な行為なのか。国王は理解しているのだろうか。
僕らの表情の翳りを察したのか。国王は更に付け加えた。
「ここは発見こそ何よりも重要視される国だ。悲しかろうが残酷だろうが、新たなる発見をし、次の発見に生かす。それがここにいる為のルールなのだよ」
こうして、事件は終幕を迎えた。
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