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排気ガスと土埃が漂う先に、僕たちの目的地が見えてきた。黄色くテーピングされた家の前に、二人の警官が仁王立ちしている。僕たちが近づくと、事前に顔を知っていたらしく、身体を横にして通りやすくしてくれた。
「現場は遺体以外は事件当時のままです。要件があれば私に申し付けてください」
事件から日にちが経っているので、当然、遺体は回収されていた。死亡現場の写真はもちろんとっているだろうけれど、やはり第三者の介入が入らない自然体の遺体を見たかった。人為が加わると、事実が曲がりやすくなるのは世の常である。先生も不安なのか顔をしかめている。
「君、目の前の扉も当時のままなのか」先生が指さすところは玄関の扉。これから僕たちが入ろうとしているそれは、おおざっぱに開かれている。
「多少は触りましたが、それだけです。事件当初から扉は開いてましたよ」
「第一発見者は君か?」警官は多少不思議そうな顔をしたが、すぐさま表情を戻した。
「はい、私が巡回中に発見しました。ですので、保証します。扉は開いていました」
先生は数回頷くと、首を傾げながら家に入っていく。僕はつぶさに家の外観を観察していたが、周りの軒並みとそんなに変わり映えのない造りである。
レンガ建築のシンプルな平屋。二つの格子窓。三角屋根の上には煙突がついている。僕の見た限りでは、目立った所は見られない。事件とは何も関係はありそうになかった。
家の中に入ると、僕は目を見張った。さすがは研究者といったところか。至る所に書類や本が山積みになっている。床に散らばる書面。机の上にもこれまた膨大な書籍といくつかの酒瓶とコップ。そして、空になった小さな薬瓶が捨ててある。彼は片付けが得意ではないようである。おまけにずぼららしく、空中に埃が舞っている。まあ、彼に限らず、ここの住民は面倒くさがりが多いのだが。先生の方に行ってみる。格子窓に近い方、締め切られているカーテンから明かりが覗いている。目線を少し左にずらすとマントルピースの上にある蒸気機関車の模型が目に映る。細かな所まで表現されている。ちょっとほしい。その前に机と二人分の白いソファ。ちょうど先生はソファについているどす黒いシミを調べている。ここが殺害の現場であることは明らかであった。
「先生、どうでしょう」
「どう、とは?」
「何か発見はありましたか?」
「むーん」
先生は唸るばかりで答えようとはしない。まあ、焦っても仕方ない。じっくりと見ていこうじゃないか。と意思を固めた所で、誰かが玄関から入ってきた。
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