発見の王国

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 一夜明けた翌日。広場に集まった僕たちは国王、並びに暇な見物人に囲まれていた。演劇だと勘違いしているのか。楽しそうに笑う声が多い。全く呑気なものである。先生はそんな混雑を無視して、集中している。 「静まれい!」家来の一人が場を落ち着かせる。静寂が訪れた頃合いをみて、国王は喋りだした。 「事件の捜査、ご苦労であった。さて、では貴様の最終的な推理を聞かせてもらおう。犯人は誰なのか。どんな真実を発見したのか」先生は立ち上がり、出来うるだけ余裕の笑みを浮かべ話し出した。 「順序だててお話しします。まず、私が注目したのは玄関の扉でした。第一発見者の警官はこう言いました。事件当初から扉は開いていたと。しかし、犯人立場になってみるとこれはおかしい。どんな犯人でも犯行現場の発見は遅れた方がいいに決まっています。犯人は何故、扉を開けっぱなしにして犯行現場を発見しやすくしたのでしょう」 聴衆から確かにと同意の声が聞こえてくる。まず、掴みには成功したらしい。 「次に現場のマントルピースに隙間なく何か物が詰まっていました。ご存じの通り有害物質を外に出すための通路に物を詰め込む目的など、一つに決まっています。一酸化炭素中毒による自殺です」人々がどよめく。これには国王も眉をひそめた。 「ふむ、よくわかった。それで、そこから何が導かれるというのだ」先生の顔つきが変わる。ここが山場のようである。 「その二つに意識を向けた時、直感したのです。これは惨劇ではなくどちらかといえば悲劇なのではと。王よ遺体の写真は御覧になられましたか」 「ああ、確認はしている」 「では、洞察力に優れた貴方ならお気づきでしょう。遺体の左手が不自然に開いていたのを」 「ふむ、思えば確かに開かれていた。だが、それが事件と関係があるのか」先生は深く頷いた。 「写真を見たとき、私はこう考えました。被害者は何か握っていたのではないかと。しかし、めぼしいものは近くに落ちてはいません。犯人が無理やり持っていったとも考えました。けれど、私はさらに深く思案し、思いついたのです。これは人の手を握っていた。いや、むしろ握られていたのではないかと」 沈黙が場を支配する。国王でさえも息を殺して続きを待っている。 「私が推測する。事件当時の犯人の行動を全て説明しましょう。まず、犯人は被害者の男性がいる現場に入ります。二人で暫くひと時の時間を過ごし、飲み物に入れた睡眠薬を被害者に飲ませます。ソファに寝そべらせ、暫くの葛藤の上、男性にナイフを刺す。そして殺した後、マントルピースに火をくべ、自らも睡眠薬を飲み、被害者の手を握り眠りにつきます。そう、犯人の目的は心中自殺だったのです」 先生は国王に疑問を呈する隙を与えずに続ける。 「ですが、ここで問題が発生します。犯人の服用した睡眠薬が足りず、途中で起きてしまったのです。激しい頭痛と嘔吐を感じたでしょう。そして自分が自殺したいことも忘れ、勢いよく玄関の扉を開けて、外に出てしまったのです」  どうして殺人犯は現場を発見しやすいように扉を開けたのか、これは問いから間違っていたのだ。 「翌朝、犯人は自分を責めたことでしょう。当然です。結果だけ見れば、犯人は一緒に自殺を誓い合った人を刺し殺し、そのことを忘れ、家に逃げ帰ったのですから。今にも心臓が張り裂けそうになったことでしょう。幸いにして誰も自分だとは気づいていない。ですが、ばれるのも時間の問題だと犯人は考えていた筈です。なにせ、犯人は自殺するつもりで被害者男性の自宅まで人通りを歩いているのですからね。逃げ帰るときも同様にです。深夜とはいえ、数人の人とすれ違ったことでしょう」 そう、と先生は続ける。 「そうなのです。ばれるのは時間の問題。自分から言わなくても裁かれる日が来ると高をくくっていた。しかし、待てど暮らせど、警察は来ない。犯人は葛藤していた筈です。裁かれるのを待つか。ここで命を絶つか。今、この瞬間も悩み、罪悪感で押しつぶされそうになっている」  誰かの嗚咽が聞こえてくる。自分の夫を殺し、罪の告白が出来なくて苦しんでいる彼女の泣き声が。 「そうですよね。ご婦人」先生は優しい声音でいった。
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