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「あっ!」
「浬さん! また走って... 」
見つけた。
歩道に立ち尽くしたまま、口の中で ぶつぶつと何かを呟いている。恨み言だ。
「クソ... アイツが... 」
青黒い顔の その人は
「あの時、あの自転車を避けなければ... 」と 口から 冥い墨色の靄を吐き出し続けていた。
墨色の靄は その人に沿って降ると、足元から纏わりついて 身体を重たくしていく。その場から動けなくなってしまう。
そして、目の前に立った 俺と柚葉ちゃんにも気付いていない。見えてないんだ。
「ユイカは、まだ、小学校に上がったばかりだったのに... 」
今 この人が言った “ユイカ” というのは、お子さんの名前なんだろう。
スーツを着ている この人も、働き盛りって歳に見える。
すぐ先の街灯の柱の下には、花や缶コーヒーが供えられていた。
走ってきた自転車を避けて、車に轢かれてしまったみたいだ。
柚葉ちゃんと目を合わせると、青黒い人に
「あの」と、声を掛けてみた。
「白い... 白い自転車だった」
やっぱり、聞こえないか...
俺も こうだったんだろうな...
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