1 及川 浬

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「あっ!」 「(かいり)さん! また走って... 」 見つけた。 歩道に立ち尽くしたまま、口の中で ぶつぶつと何かを呟いている。恨み言だ。 「クソ... アイツが... 」 青黒い顔の その人は 「あの時、あの自転車を避けなければ... 」と 口から (くら)い墨色の靄を吐き出し続けていた。 墨色の靄は その人に沿って降ると、足元から纏わりついて 身体を重たくしていく。その場から動けなくなってしまう。 そして、目の前に立った 俺と柚葉(ゆずは)ちゃんにも気付いていない。見えてないんだ。 「ユイカは、まだ、小学校に上がったばかりだったのに... 」 今 この人が言った “ユイカ” というのは、お子さんの名前なんだろう。 スーツを着ている この人も、働き盛りって歳に見える。 すぐ先の街灯の柱の下には、花や缶コーヒーが供えられていた。 走ってきた自転車を避けて、車に轢かれてしまったみたいだ。 柚葉ちゃんと目を合わせると、青黒い人に 「あの」と、声を掛けてみた。 「白い... 白い自転車だった」 やっぱり、聞こえないか... 俺も こうだったんだろうな...
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