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少女が住んでいるのは、山の麓に最近建てられた大きな病院らしかった。この町の主な交通手段は車であり、電車はほぼ通っていないに等しい。だからこの公園からその病院に行くためには少なくとも一時間は歩く必要があった。
「わたしね、昨日の夜にこっそり病院を抜け出してきたの」
両手を後ろに組み、今にもリズムが流れてくるような楽しげのステップで歩を進めている少女はいたずらっぽい笑みを作りながらそう言う。
「多分、今頃病院は大慌てなんだろうなぁ。ずっと入院してた患者が急にいなくなっちゃうんだもん」
「キミは、身体のどこかが悪いの?」
少年は自分の少し前を歩く少女に向かって声をかける。
「うーん。どうなんだろう。わたしにも正直よくわかんないんだよなぁ。子供の頃から病院にいたからさ、わたしのとって身体が自由に動かないことが普通なんだ。ほんと、おかしいよね。自分の身体のことになのに」
少女は少年の振り向いて、どこか自嘲ぎみな笑みを作りながらそう言った。
二人の横を透明な風が音を立てて通り過ぎていく。その風は少女の髪と白いワンピースを撫でるように揺らしていった。
ややあって、少年を口を開く。
「僕も自分の身体のことは全然よくわかんないよ。どうしてお腹が減るのかも分かんないし、どうして自分の血が赤いのかも分かんない。自分のことを考えることってあんまりないからさ」
「……ねえ、それって励ましてくれてるの?」
少年は困ったように頭を掻きながら、小さく頷く。
すると少女は、「ふふん」と歌うように呟いた。
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