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これが症状っていうのか分かんないんだけどね、と前置きしてから少女は言う。
「ずっとね、夢を見てるの。それもいつも決まって同じ夢。同じ人に出会って、同じことを話す。でね、いつも同じ最後に辿り着んだ。ぐるぐる回って、またいつもと同じところに戻ってる」
「それはどんな夢なの?」
と少年は訊ねてみたが、少女は構わず話を続ける。
「でもね、いいの。楽しいから。変わらないことって、案外素敵なことなんだなぁって気づいたし」
その言葉を聞いて、また少年の中で何かが弾ける。何かを叫びたいのに、何を叫べば良いのか分からない。そんな居心地の悪い感覚。
しばらくの間、その違和感の正体に少年は頭を悩ましていたが、その思考も打ち切られる。少女が病院がある方向とは別の方向へと歩き始めたからだ。
「あれ、道はこっちじゃないの?」
「病院にいくなら、こっちの方が近道なんだよー」
少女はそれから曲がりくねったヘビのような道順で病院を目指した。草木が生い茂った道とも呼べないところも通った。橋の架かっていない場所から靴を水浸しにして川を渡った。
でもそれは少年としても好都合だった。少年はもっとこの少女と会話をしていたかったからだ。このまま別れてしまったら、もう少女には会えないような漠然とした予感があった。
不思議な事と言えば、少年達が避けた道の方からは決まって何かが崩壊する音や、猛々しいサイレンを鳴らした消防車やパトカーが凄まじい勢いで走り去って行ったということだ。
いつの間にかに、少女は少年の手を握って「こっち、こっち」と言いながら、急ぎ足で目的地を目指していた。
日がだんだん傾き始めていた。遠くの山に隠れていく太陽は、未練がましく二人のことを見つめていた。
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