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轟音と共に強い衝撃が少年を――襲うことはなかった。
何かに背中を押された少年の身体は転がり、視界がぐるりと回転する。一回転。二回転。
エントランスの支柱にぶつかって、少年の回転はようやく止まる。
揺れる視界に頭を押さえながら、少年が立ち上がると、数メートル先で真っ赤に染まった何かが倒れている視界に写った。
痩せ型。赤いワンピース。赤い髪留め。
どこからか、女性の悲鳴が聞こえる。突っ込んだ車が喚くようにクラクションを鳴らし続けている。
少年は、少女に近づいた。少女からは赤黒い液体流れ、周囲のアスファルトを真っ赤に染め尽くしている。
ついさっきまで少年の手を引いていた細い腕は、もう動くことはなかった。
『こちらは防災南地区です。先ほど捜索していた、平沢ひかるさんは「発見」されました。ご協力ありがとうございました』
事の顛末を見届けた太陽は、満足した顔をして姿を消していく。
途端、少年の視界は暗転する。
安堵したような笑みを作っている少女を残したまま。
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