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柔らかな光の粒が、少しずつ空気を暖める。
気持ち良さそうに風を受ける洗濯物とは裏腹に、ミチカは2階のベランダに干した掛け布団に体を預けて項垂れた。
失礼な言動を取ってしまった。
パンツのやり取りが頭から離れない。謝ることができないまま、美九里は出勤してしまった。
これが姉の前だったら……想像しただけで、寒気がした。自分は姉のことが疎ましかったのかもしれないと思うと、さらに自己嫌悪に陥ってしまう。
「ミチカはしっかりしているね。布団まで干すなんて」
ベランダに出たユキチが、ミチカの真似をして布団を干す。部屋は隣だが、ベランダはつながっているのだ。
「実家に帰ったときに、お姉さんのことを聞いたよ。僕は何も知らなくて、浅はかだった」
「別に、大変なことなんて、なかったよ」
おそらくユキチが聞いたのは、ミチカの姉、茉莉の訃報だけだ。大変なことなんかなかったことにしておこう。悪い「思い」に巻き込まれたことはあまり話したくない。
「それにしても、びっくりしたよ。ユキチが介護士になるなんて」
「そのために大学に行ったんだ。介護福祉士の資格を取って、介護業界に行きたかったから」
「ユキチは頭が良いから、ホワイトカラーの仕事に就くと思ってた。スーツを着て、格好良く仕事をして」
格好良く、とユキチが繰り返した。
「いや、あの、新宿で会ったときは格好良く見えたから、スーツが似合うと思って」
喋れば喋るほど、ユキチを口説いている風になってしまう。
ユキチは、干した布団に顔をうずめ、手で布団をばんばん叩く。
「ミチカ可愛すぎるだろ……」
ミチカは聞こえないふりをした。
「お掃除してくるね。それから、食料品を買いに行ってくる」
「一緒に行こうよ! ミチカに教えたいところもあるし、車も出すし!」
「大丈夫だよ。バスに乗って行くから」
「田舎の交通事情を甘く見ない方が良いよ。僕が運転するから、遠慮なく乗ってくれ」
ミチカは返事に窮した。ここに来たばかりだが、車に乗せてもらってばかりだ。そんなに迷惑はかけられない。
「考えさせて下さい」
返事は保留にして、先に掃除をすることにした。
最低限の掃除はなされているようで不潔な感じはないが、細かいところまで行き届いていない。今まで美九里ひとりで住んでいたのだ。仕事をしながら掃除するのは限界があっただろう。
掃除機は、ある。スポンジも、予備あり。雑巾は新調を要する。クレンジング用品は皆無。
「買いに行かなくちゃ」
つい、ひとりごとが出てしまった。
「ユキチ、お願いします」
「うん、行こう」
掃除用品と食料品。それと、ユキチおすすめの場所。
ユキチの運転する車で行くことにした。
「ユキチは運転が上手だね」
「大学はこれで通学っていたからね」
「車で通学なんて、すごい」
自分も車を運転しなくては生活ができない、とミチカは思ってしまった。まずはお金を貯めて、教習所に通う。それから、車を買う。養育費を叔父に返したいから、かなり貯金しなくては。働く前から悩んでしまった。
ユキチが向かったのは、激安を謳い文句にする大きなディスカウントショップだった。
「商品たくさんあるね。目移りしちゃう」
「これ、便利そうだな」
ミチカとユキチ。ふたり並んで棚の商品を眺める。
手持ちのお金を考えて、スマートフォンの電卓機能で計算しながらクレンジング用品を品定めする。
なんか、楽しい。
「初めてだね。ミチカと買い出しするのは」
「私、文化祭とか参加しなかったから」
「僕も」
「ユキチも?」
「じゃあ、お互い初めてだ」
お互い気を遣うように、あるいは競うようにカートを押して通路を進んでいると、「ユキチさん」とユキチが声をかけられた。
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