第一章 あやし者の介護をすることになりそうです

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 大学4年生の12月だというのに、ミチカは就職活動が終わっていない。  企業に足を運んで説明会や面接を受けても、黒くどんよりした「思い」が社内に漂っていることが多く、その場にいるだけで気分が悪くなってしまう。何も知らない姉からは「選り好みするなんて最低!」と何度も叱られた。  ミチカが唯一安心できる点は、卒業論文がほぼ完成していることだ。姉のように社会科に秀でているわけでないミチカは、日本文学科の近代文学ゼミに所属している。  でもやっぱり就職に日本文学は役立たない。  日に日に迫るクリスマスに街の空気が浮つく中、ミチカはハローワーク通い。  ハローワークの業務時間である19時まで求人票探しに粘り、思うように求人が見つからず、帰路についた。  人の波に揉まれながら駅を目指し、胸にぽっかり空いた心地がした。  大学を卒業したらどうなるのだろう。  仕事は。  今後の人生は。  自分は何がやりたいのか。  考えれば考えるほどお先真っ暗に感じてしまう。  不意に足が止まり、嫌な感じがした。  負のちからが強い「思い」に目をつけられた。  逃げなくては。  逃げなくては。  そう思うのに。  もがくことができず、視界が真っ暗になった。  ――ミチカちゃん、酷い!  姉の言葉が頭の中で響く。  姉は大学生の間は叔父夫婦の家にいたが、社会人になるとアパートを借りて引っ越した。中学生だったミチカも、姉に言われるがままに同居することになった。  姉は当時から情緒不安定で、「思い」が黒いもやを発してまとわりついていたが、それとは関係なく自分に自信がなくて塞ぎ込む性格だった。  姉がヒステリックになったのは、大学進学を機に叔父夫婦の家を出た直後だった。  ――ミチカちゃん、酷い! 私が仕事で忙しいのがわかるのに、一緒に暮らしてくれないなんて!  ――ミチカちゃん、酷い! 私を怒らせないでよ! 怒りたくないのに、怒るようにミチカちゃんに無理矢理仕向けられているんだからね!  姉の声がどんどん大きくなり、響いて、頭が痛くなる。  息ができない。首を絞められているようだ。  真っ暗な闇の中で、何も見えない。  薄れゆく意識の中で、姉の声がはっきり聞こえた。  ――ねえ、ミチカちゃん。一緒に死んじゃおうよ。  一瞬だけ、意識が落ちた。  しかし、まばゆい光に目がくらみ、思わず目をつむった。
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