第一章 あやし者の介護をすることになりそうです

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 気がつくと、ミチカは空気が澄んだ場所にいた。  静まり返り、周囲に何もない。  「思い」に狙われて精神的に弱ってしまうことはあったが、見知らぬ場所にいることは初めてだった。  ここは、大きな池か湖のようだ。夜空に月が浮かんでいる。周囲にビルみたいな建物はひとつもなく、田舎に来てしまったようだ。  時間と場所を調べようとスマートフォンを出すが、「あ~う~」としわがれた不思議な声が空から降ってきて、ミチカは夜空を見上げた。  月光を浴びて手足を広げ宙に浮かんでいるのは、福の神みたいにふくふくした、ちっちゃなおばあちゃんだ。  おばあちゃんは滑空するように悠々と降りてくる。  焦ったのは、ミチカの方だ。ミチカは精一杯腕を広げ、おばあちゃんをキャッチした。小柄だが、子どもと違い、重量感がある。一時期アルバイトをしていた学童保育の子どもを抱き上げたときのことを思い出したのも、つかの間。  福の神みたいなちっちゃなおばあちゃんは、「あ~う~」と気持ち良さそうな声を出し、あろうことか、ミチカの(貧相な)胸に額をこすりつけた。  学童保育の子にも、そんなことされたことはないのに。  おばあちゃんを落とさないように腕に力をいれつつ、思考は違う方に向いていた。  行動が不思議すぎる、おばあちゃん。内から発せられるオーラは、なぜか神々しい。
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