550円の幸福

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 帰り道の道中で、指名手配犯の情報が載った紙が貼られた看板を見つけた。目も眩むような金額の懸賞金に、何も心が跳ねず、そのまま素通りして家へ帰った。  「新しいバイト先、探すか……」  ベランダに出てスマホを取り出し、ブラウザを開いて履歴から例のサイトを削除する。代わりに求人情報のサイトをタップした。  空は青く、雲は高く、そして煙草は美味い。芦名さんの得たかったものとは、こういうものなのかもしれないと思った。  相変わらず金は無いし、何ならしばらくは収入源が絶たれてしまったし、更に節約せざるを得ない。生活は苦しく、失ったものの方が大きいように思われる。だけど。  俺は多分、どちらかというと、今この瞬間、健全で尊い、幸福とやらを感じているのかもしれない。
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