2年2組

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2年2組

 2年生に上がる際には文系か理系かを選択しなければならず、僕は迷うことなく文系を選択した。数学はどうにも苦手で、どちらかといえば国語や英語の方が好きだったから。  クラスの顔ぶれと担任が変わっても、現代文の担当教師はT先生のままだった。T先生の授業に対する認識はみんな同じらしく、現代文の授業になると誰もが5分前には席に着いていた。  大きな足音も黒板を叩く振動も、それから禿げ上がった頭も変わらない。T先生は相変わらずT先生のままだった。  今日は運悪くT先生に当てられてしまった。僕とあと2人、予習内容を板書するように指示が出される。僕を含めた三人はそれぞれチョークを手に取って文字を書き始めた。  僕が手に取ったチョークは先が欠けていた。きっとT先生がさっきまで使っていたものだろう。 「……ま、おおむね良いでしょう」  多少の訂正をされながらも何とか板書を終えて、僕たちは席に着いた。反応は悪くない。席に着くと若干脈が速くなっていたことに気づき、ひとつ大きく息を吐いた。 「~~で、これは多少脱線しますが……」  添削を終えたT先生が徐に話し出す。現在取り扱っている教材は明治期の有名な文豪が書いた小説だ。T先生はその作品の内容、作家の生涯、それから日本史の教科書に載っていそうな時代背景までつらつらと喋り始めた。  相変わらず、すごい知識量だ。  話に耳を傾けながら僕は教科書に目を向ける。数ページ捲ると作者について書かれた部分があるが、T先生の話している内容は教科書の簡素な説明よりも遥かに情報量が多い。孫の手を片手に、まるで自分の目で見たことがあるかのように話す。  聞いているうちに、話の内容は世界史にまで及び始めた。やっぱり何も見ることなく、T先生は話し続ける。顔を上げると、麻生の呆けた横顔が目に入った。  授業を1年も受け続けると、僕も含めて、さすがに慣れる生徒が多くなった。  最初のような不満を聞くことはかなり減って、代わりに数人で輪になって現代文の予習に励む姿を見ることが多くなった気がする。  だが相変わらずT先生は謎が多い人物で、今のように知識の幅広さで生徒を圧倒することがしばしばある。だというのにT先生の説明は分かりやすい。国語以外の分野でもすっきりとまとめて話してくれるので、世界史を取っていない僕でも説明は抵抗感なく頭に入ってきた。  1年生の頃からそうだった。  T先生の授業は速くても、分かりやすい。  僕は自分の教科書を再度見た。中学生の頃までは国語の教科書なんて真っ白が当たり前だったのに、気づけば余白は真っ黒になっている。  指示語の意味などは小テストで出されることが増えてきた。授業中にしっかり意味を書き込まないと後で困ることになる。赤ペンで熟語を囲ったり、用語同士を矢印でつなぎ合わせたり。随分と書き込みが増えた教科書に、なんだか去年のことが懐かしくなる。 「はい、それじゃ、日直。号令」  呼ばれて、僕は慌てて号令をかけた。教科書を眺めている内に本日の授業は終わっていたらしい。T先生は教卓の上を瞬く間に片付けると、大きな足音を鳴らして教室を出て行った。 「麻生。最後のところ、写させて」 「おー、いいぞ。でも先に黒板消した方がいいんじゃね?」  麻生が指差した先には、びっちりと文字が書き込まれた黒板。授業後に黒板を消すのは日直の役目で、僕は急いで文字を消しにかかった。 「くっそ、消えねえ……!」  チョークが欠ける、あるいは折れるほどの力を込めて書くT先生の文字は、最低でも3回は擦らないと消えない。本来もう1人いるはずの日直は体調不良のため休みだ。必然的に僕は1人でこの黒板をきれいにしないといけない。  結局1人では間に合いそうになく、麻生に手伝ってもらいながら僕は必死になって黒板を消した。  
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