ワンダールームシェア

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「本当に怖がらないみたいね」カノが感心すしたうに言う。 「うん。前の人は逃げちゃったのに」  本当は何度も怖がっているし、逃げないのではなくて、逃げるタイミングを失っているだけ。それに、逃げようにも何故か玄関から出られないんだからどうしようもない。 「それなら、今度こそ?」 「そうだね」  二人は示し合わせたように目配せすると、子供が悪巧みをするような輝いた目で一斉にこちらを見た。 「な、なに?」  私は何事かと後退りする。今度こそ、窓を割ってベランダから飛び降りてでも逃げなければいけないかもしれない、と覚悟する。 「歓迎会をしますっ。カノ特製のお茶会ですっ」  シズナの楽しそうな宣言に、カノは拍手をした。拍子抜けした私からは「へ?」と変な声が漏れていた。 「じゃあ、準備開始っ」  二人が慌ただしく準備を始めようとする。 「私も手伝うことある?」 「もう、エマさんの歓迎会なんだよ? 主役は座ってればいいの」  自分だけ動かないのも悪いので手伝おうとしたのだが、肩を押さえられ無理やり座らせられてしまった。  シズナは忙しなくキッチンの戸棚や冷蔵庫を何度も開けたり閉めたりしている。カノは出てきたシンク下の収納に入ったまま出てこない。もしかしたら、あそこに妖精の国への入り口でもあるんだろうか。  そんな彼女たちを眺めながら、私は居心地悪く座っている。  みんなが働いているのに、自分だけ休んでいることのなんと居心地の悪いことか。声をかけられれば、すぐにでも立ち上がって手伝うのに。  ――大丈夫です。私一人で出来るので。  会社で同僚が手伝おうかと手を差し伸べてくれた時の、私の常套句。私なんかのために誰かの手をわずらわせることが、心の底から嫌だった。他人に迷惑をかけるくらいなら、最初から最後まで自分ひとりでやればいい。そう考えている。  でも、もしかしたら、私が手をはねのけてきたみんなも、今の私のような疎外感を感じていたのかもしれない。  大きなため息を一つ吐いた。 「歓迎会、迷惑だった?」  心配そうにシズナが顔を覗き込んできた。 「ううん。そうじゃないよ」 「なにかあるなら、話してね。そんな暗い顔じゃあ歓迎会のし甲斐がないから」 「……ごめん。私の問題だから」
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