ワンダールームシェア

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 弱気から口に出そうになった言葉を呑み込む。これは、私自身の、私だけの問題。歓迎会を開いてくれる彼女たちに懸念を与えるのは不本意だけど、愚痴を聞いてもらうのはもっと違う気がする。 「そっか。話したくなったら、いつでも聞くよ」 「うん。ありがとう」  少し寂しそうに笑う彼女に、私は努めて笑みを返す。 「そこっ、サボらないのっ」  物音で察したのか、シンクの奥から怒声が聞こえた。私とシズナは一度目を見合わせてから、おかしくなって同時に吹き出した。 「あの、座ってればいいなんて言っておいてなんですが、手伝ってもらっていい? どこに何があるのか分からなくて」  バツの悪そうに言いながら、シズナは頬を掻いた。ここは私の部屋。そして、彼女は昨日までどこともわからない場所に閉じ込められていたのだから当然だ。  私は態とらしく大きな息を吐いて、呆れるふりをしてから立ち上がる。 「良いよ。仕方がないなあ」 「やった。ありがと」  嬉しそうに跳ねるシズナ。つられて私も嬉しくなってしまう。何もせ ずに居心地悪いまま座っているよりは、よっぽど気が楽だ。  嬉しくなったのも束の間、台所についたシズナの口から出た「エマさんお菓子作りって出来ます?」という言葉に私は固まってしまう。 「何かお茶会らしいお菓子でも作ろう思ったんだけど、よく考えたらお菓子作りなんてしたことがなくて……」 「作ったこと無いのに、作ろうとしたの?」 「はい」意気消沈でシズナは答える。 「……ホットケーキでも良い?」  かといって、私もお菓子作りなんて出来た試しがない。失敗は数回あるけど。 「はいっ。賛成っ。ありがとうございますっ」  私の提案に、シズナは大袈裟にブンブンと首を縦に振った。  フライパンに熱を入れる私の隣で、ホットケーキミックスと卵、牛乳を混ぜるシズナが嬉しそうに肩を揺らしている。 「やけに楽しそうね」 「楽しいの。傍に誰かがいてくれて、一緒に何かをするなんて久しぶりだから」  シズナから生地を受け取り、油を敷いたフライパンに流し込む。生地の熱せられる小気味いい音が聞こえた。 「ほら、わたしって、一緒に住んでた男には刺し殺されちゃうし、幽霊になってからも怖がられてお祓いされたり、御札で封じられたりだし」  生地の表面がふつふつと泡立つ。生地をひっくり返すと、ふわっと甘い匂いが辺りに広がった。
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