ワンダールームシェア

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「カノは妖精で、ほら、あんなのだから……」 「誰があんなのよっ。失礼ねっ」  シズナの声をかき消すように、シンク下から怒声とともにドンっと叩かれた音が聞こえた。  焼き上がったホットケーキをフライパンからお皿に移す。我ながら上出来。他人に出しても恥ずかしくない綺麗なきつね色。 「わたしたちを見つけてくれたのがエマさんで良かった。こんなわたしたちを受け入れてくれて本当に嬉しかったんだよ」 「そっか」  感激するシズナに対して、私は素っ気なく返す。  そうしないと、涙が溢れそうだったから。喉の奥がキュッと締まって、うまく声が出せそうになかったから。  彼女たちは私と同じ、居場所のない者同士。  片や他人に受け入れられようとして一人で仕事を頑張って、片や他人に受け入れられようとして初対面の挨拶を考えたり、歓迎会を開いてみたり。でも、誰も受け入れてくれなくて、居場所がなくて。 「だから、ありがとうございますっ」  早口で言うと、シズナは照れくさそうに笑った。 「ご、ごめんっ」  我慢しきれず、涙が零れてしまう。感極まって泣いたのを見られるのが恥ずかしくて、私は洗面所へと逃げ出した。  洗面所で顔を洗う。こんな泣いたみっともない顔では、二人の所に戻れない。顔を上げて鏡を見ると、涙でボロボロの私が居た。  でも、笑ってる。嬉しさが溢れてきて、笑ってしまう。ニヤニヤと変な顔。  私はずっと居場所が欲しかった。ここに居て良いんだよって誰かに言って欲しかった。認めて欲しかった。  だから、誰からも嫌われないように独りで頑張って、でもそんな器用でもなく、能力もない私は空回り。  誰かに認めてほしいくせに、誰も傍に寄せ付けようとしない。なんて空虚な空回り。  そんな私を彼女たちは認めてくれた。居場所をくれた。シズナは私にお礼を言っていたけど、本当にお礼を言いたいのはこちら。  私はずっと居場所を探していたんだから。  ――ぴちょん。  ふいに洗面所の奥、浴室から水音が聞こえた。明かりがついていなくて、真っ暗な浴室。その扉がほんの隙間だけ開いている。  心臓が嫌に早く動く。何故だか恐ろしい何かが潜んでいるような予感がして、身体が震えてしまう。それなのに、開けなければいけないと心の奥で何かがざわめいている。  ううん。大丈夫。だって、幽霊や妖精とだって仲良くなれたんだから。もう何が出たって怖くない。   恐る恐る、私は浴室の扉を開いた。
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