ピジョン・バーン

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 鳩が飛んだんだよ、とシロボシが言った。就寝前のことだ。  子供はなんで寝る前にあんなに元気が爆発しそうになるんだろう。しかし、鳩というフレーズに私は覚えがあった、  昨日の敵の殲滅作戦で、隠れていた最後の一人を撃ち殺しした時だ。あの時、死体に隠れて間一髪生き延びた。その時、笛に似た鳥の声を合図に立ち上がったのだ。   ピイ、と。あれが鳩だとシロボシは勘違いしたのだ。  鳩が砂漠で生きていられるわけがないじゃないか。 「なんで鳩を知っているの」   興味本位で私が聞けば、手紙にある切手のモチーフにあったから、だそうだ。彼女に手紙を出す人間はいない。身内も、友だちも彼女にはいないのだ。きっと誰かの郵便を盗み見たんだろう。  朝は平等にくるのに、どうしてこうも不自由なことが多すぎるんだろう。  私は、眠気眼をこするシロボシと少女二人を肩車しながら、朝日を拝んだ。いつもこんなことをしている訳ではない。 たまたま、何か見つけたかっただけなのだ。 「眠いよお。朝日が眩しいよお」  シロボシは文句ばかり垂れて、少女は私の体に子ネズミのようにしがみついている。 「まあまあ」 「なにがあ」 「この基地で見る最後の朝日だ」  私の言葉に、眠気で満たされた脳内が段々と澄んでいくのだろう。シロボシは、私の顔を覗き込む。 「どうして」 「場所を移動するんだ。他の地域に、基地が移動する」  移動して、また守るために他者を虐げるのだ。残り少ない土地や富を分け合うことが残印できれば、きっと戦争なんて起こりやしない。この世界が小さいのか、はたまた人間の欲望が果てしないのか。 「なんだ、つまんないの」  シロボシの言葉に、今度は私が彼女の顔を見上げる。 「どういうことだ」 「私とクロガオと、この娘だけでどっか行けちゃったらいいのに」  軽い口調で言うので、私もなんだか出来そうな気がした。 「なんで、この娘を助けたの」 「えっ」 「放っておいても、問題はなかったはずだ」  意地の悪い質問だなと、我ながら辟易する。しかし、シロボシはうーんと唸って、すぐに答えた。 「一人は寂しいもんね」  ねーっ、と隣の少女にシロボシが笑いかける。少女はやはりきょとんとしているのだろうか、と私は想像した。  遠くで笛の音がする。  この砂漠にまだ鳩は飛ばない。  
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