月夜のお見合い

1/6
前へ
/6ページ
次へ
 自慢ではないが、私は婚活のプロであると自負している。二十代半ばからマッチングアプリ、街コン、婚活パーティー……あらゆる場所でたった一人の相手を探し求め、早五年。この界隈では長く経験し熟達したプロほど敗者である。だからそう、自慢ではない。  三十代に突入してからは、結婚意欲の高い男女が集まる“結婚相談所”一本に絞って活動してきた。気になる異性に申し込みをし、申し受けが成立すれば“お見合い”。その先は仮交際、本交際、婚約……という無駄のない婚活システム。私は勝者になる為に最大限努力し、良しとされる作法を身に着け、毒舌仲人も太鼓判を押すお見合いマスターになった。  まず外見。服装は女子アナのような清楚なワンピース。髪は必ずサロンで巻いて、爪はシンプルなピンクベージュのネイル。どんなに寒い冬の日でもタイツにブーツではなく、ストッキングにヒールの高いパンプスで耐えた。  待ち合わせ時間の三十分前には現地に到着し、ラウンジやカフェの込み具合を確認。万が一並ぶようだったら、すぐに別の場所を提案できるように近くのカフェを下調べ。席の確保まですると相手の見せ場を取ってしまいかねない為、そこまではしないのが私流だ。その後はお手洗いで身嗜みの最終チェック、十分前には待ち合わせ場所へ。お相手を見つけたらこちらから笑顔で挨拶をする。  飲み物はオレンジジュース。紅茶が無難ではあるが、明るいオレンジ色には顔色をよく見せてくれる効果があるのだ。会話は4:6(自分:相手)で。会計は相談所のルールで男性持ちになっているので、下手に財布は出さず素直に感謝。その代わり“可”な相手であれば、別れ際にあらかじめ用意していた手土産を渡す。相手が“不可”でも落ち込んだりはしない。家に帰ってから、手土産用のちょっと良い焼き菓子を食べる楽しみが出来るからだ。自分の機嫌を自分で取るのが上手いのだ、私は。  そんな私が何故結婚できないのか。お見合いの勝率は今のところほぼ100%だが、何度かデートを重ねた“その先”に繋がらない。皆、最後には『自分に興味が無さそう』と言って去っていく。または私が彼らの言う理由で、交際を断るかである。  他人に興味が持てず、一人でも楽しく生きられる私。私は本当に結婚したいのだろうか?どうして結婚したかったのか分からなくなってきた。そろそろ一人で生きる覚悟を決めてもいいかもしれない。   (とりあえず、明日のお見合いは消化しないとなあ)
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加