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――金曜19時、仕事終わり。明日のお見合い用の手土産を求めて、駅ビルの洋菓子店を回る。ハロウィン商戦でどこもかしこもカボチャ味のお菓子ばかりだった。季節らしさがあっていいかもしれない、とカボチャクッキーの詰め合わせを購入する。
帰りの電車に乗ると、私は携帯を取り出し、結婚相談所のサイトにアクセスした。このサイトで相手の検索、プロフィール閲覧、お見合いのスケジュール管理ができる。明日の相手のプロフィールを見返しておこうと思ったのだ。
(確か、ちょっと変わった仕事をしてる人なんだよね)
安定を好む婚活女性には受けないだろうが、私はそこが良いと思った。謎は多い方がいい。自分が興味を持てるかが、私の婚活を左右するのだ。
趣味は何だったっけ?とスクロールする。しかし何故か画面が反応しない。故障だろうか?居眠りを起こすようにタップを繰り返すと、突然画面の色が変わった。全体的に暗い。ブラウザのシークレットモードを開いてしまったかと思ったが、それとも違う。色が全て反転したようになっていた。
しかし画面は反応するようになっており、そこは一安心。
(あれ?)
プロフィールの上部に表示されているお見合いの日程。私はそれに目を疑った。お見合いは明日の11時からと記憶していたが……
(今夜21時!?あと1時間しかないじゃん!)
私は慌てて次の駅で下り、近くの店でワンピースを買い、楽さを重視した仕事服から着替える。靴は諦めた。メイクを直し、もう一度電車に乗って待ち合わせのホテル前に向かう。
平日の、それも夜のお見合いなんて初めてだ。お見合いは大抵ランチ前の午前11時か、ランチ後のティータイムが鉄板なのだ。当日まで気付かないなんて……相手が指定してきた時間を見間違えて承諾してしまったのだろう。夜の時間を指定してくるなんて、土日も仕事が忙しい人なのだろうか?
何とか五分前に、豪奢なホテルの前に到着する。夜にも関わらずそこは多くの人で賑わっていた。真っ赤なドレスを着た艶美な女性、寄り添う老紳士。美女の生き血を啜りそうな美男子。包帯まみれの男、頭に釘を刺した……
(な、何これ。仮装パーティー?)
それはまるで百鬼夜行だった。ハロウィンのイベントだろうか?普通の服装の自分が浮いているようで一気に不安になる。いや、それでもお見合いに仮装して来る訳には行かないし……相手だって普通にスーツ姿の筈。そう、きっと、あんな風に素敵にスーツを着こなしている人だろう……と私は少し離れた場所に立つ男性を見た。
スラッと背が高く、紺ストライプのスリーピーススーツが抜群に似合っている。良く磨かれたピカピカの革靴。彼は私の視線に気付いたのか、颯爽とこちらに向かって歩いて来る。
私はドキドキした。かつてお見合いでこんなにドキドキしたことはない。相手の顔から、目が離せなかった。
――だって、カボチャなのだ。
スーツの上にあるのは、大きなカボチャ頭。ハロウィンらしく邪悪な笑みが彫られている。何だろう、この人は……どうして私の方に?
カボチャ頭は手元の携帯と私を見比べるようにして、確認するように私の名前を口にした。どうして私の名前を知っているのだろう?
「こんばんは、ウィリアムです。お会い出来るのを楽しみにしておりました。本日は宜しくお願いいたします」
私はもしかして、と手元の携帯を見る。色のおかしいサイト。プロフィールに表示されているのはスーツ姿の……カボチャ頭。あれ?こんな写真だったっけ?とりあえず、挨拶を返さないのは失礼だろう。私は何とか笑顔を作る。
「こ、こちらこそ……よろしくお願いいたします」
っていうかウィリアムさん?海外の人だったっけ?その頭は何?
驚いているのはこちらだが、彼はカボチャの中でハッと息を呑む。
「あなたは……」
「え?」
「あ、いえ。お写真より綺麗な方で驚いてしまいました」
「え!えっと。ウィリアムさんも……はい」
「ウィルで良いですよ」
彼の頭も、周りの人々が人間離れしているのも、全部ドッキリかもしれない。……ただの一般人である自分にドッキリを仕掛けて、誰が得するというのだ。
「席を取っておきましたので、どうぞこちらへ」
頭はさておき、スマートなエスコートが出来る男性らしい。
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