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彼女を見送った後、ウィルはラウンジに戻り、警備員に暴れた狼男の話を聞いていた。プリンを満月と見間違え狼化してしまった彼は幸い大きな怪我もなく、今は落ち着いているらしい。安心してホテルを出る。
(それにしても今日は驚いたな。まさかお見合いに人間の女性が来るとは思わなかった)
ハロウィンの時期は、二つの世界の境界が曖昧になる。こちらとあちらの結婚相談所のサイトが、何かの拍子に繋がってしまったのだろう。
待ち合わせ場所で彼女を見た時は驚いたが、人間への興味からついそのままお見合いをしてしまった。彼女も最初は戸惑っていたようだが、こちら世界の食べ物を口にしてからは馴染んだようで、時間が経つのも忘れる位色々な話をした。
……美味しそうな魂なら奪ってしまおうかと思ったが、コロコロと表情の変わる彼女に奪われてしまったのは自分の方らしい。寄せられる好意のあまりの眩しさに、危うく蒸発する所だった。
ウィルは「ふう」と息を吐き、仕事モードに切り替え、境界をくぐり人間界に侵入する。
今宵も彷徨える憐れな魂に、恐ろしい夜を届ける為に。ついでに、人間界のデートコースをリサーチする為に。
ホテルを離れ街に向かうところで――ウィルは誰かに声を掛けられた。それは身の毛のよだつ、ぞっとする声だ。
「こんな所で悪霊が何をしている?」
「おや、珍しいですね。エクソシストさんこそ、こんな所で何を?」
「俺は明日のお見合いの下見に来ただけだ……ってお前に話すことでもないな」
男は鞄の中から十字架を取り出し、ウィルに向けて構える。
「なんと、お見合い仲間でしたか。僕、ようやく素敵な人に出会えたので、ここで祓われる訳にはいかないんですよね」
「何を訳の分からないことを」
――不気味な三日月の夜、二人の男が対峙する。
祓われる者、祓う者。そして後に、一人の女性を巡って争うことになる二人である。
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