0人が本棚に入れています
本棚に追加
エピローグ
山頂は人が2、3人立てばもういっぱいという程度の、まさに猫の額であった。
頂は疑問の余地なく、世界でもっとも高い場所であった。空は深い蒼色に澄み渡り、あれだけ荒れ狂っていた暴風はぴたりと止んでいる。
彼はまだ信じられぬ気持ちのまま、あるものを見つけた。隅のほうにボロボロに風化した銘板が刺さっている。〈崑崙山山頂 標高3万尺〉とかろうじて読めた。
それだけだった。
それだけだったのだが、不意に啓一郎は自分の存在意義を悟った。心臓の動いていない村人たちのあいだに生まれた、鬼の子としての存在意義を。彼は厳密には悟ってすらいなかった。ずっと自明であった理を山頂で発見したのである。
「俺は――」確信を込めて、絶叫した。「俺は、先導者やッ!」
最初のコメントを投稿しよう!