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 何を見つけたんだい。父はよくそう聞いてくれた。そういうとき私は大体砂場遊びで掘る手を止めて何かを眺めていた。それをスコップの上にのせて父にこれと見せていたことは覚えている。  ただその何かが何だったのかは思い出せない。記憶の中の映像はそこだけ白飛びしている。何度も何度もそのやり取りをしたのに、残っている全ての記憶でそれは白飛びしている。  ふとそれを思い出した。というよりただ気になった。あれは何だったのだろうという疑問が急に膨らんで、抱えきれなくなった。あの公園は、実家から一番近いところだっただろうか。  今はまだ夜七時を少し過ぎたところ、近くのホームセンターはまだやっている。車に乗ってホームセンターに行きシャベルを買う。一回しか、今しか使わないなんてことは考えなかった。車を運転して実家の方に向かう途中、じわじわと冷静になっていく。それが何だったとしても今も埋まってるなんてことがあるだろうか。そもそも記憶の中で同じように白飛びしているからといって毎回同じものだったとは限らないだろう。けれどなぜか確信がある。それは今も埋まっていて、私に掘り出されるのを待っている。待っている? 自分の頭が出した言葉に自分で疑問をつける。その疑問を振り払って車を走らせる。三つ県を挟んだ実家まで日付が変わる前にぎりぎりたどり着けるだろう。  車をとめて公園までほんの少し。シャベルを担いで歩く。少しふらつく。流石に思い立ってすぐ休憩もしないでここまで来るのは無謀だったかもしれないと今更思う。けれど私には今しかなかった。これを抱えながら寝ることができなかった。帰ることも考えていない。明日のことも考えていない。衝動だけで今ここに立っている。  公園の砂場。少し違和感があるのは周りの建物が変わってしまったからか、遊具が塗りなおされてしまったからか、私の視点が高くなったからか。シャベルを突き刺す。小さい頃の私が掘り出せたものなのだからそんなに深いところにはないだろう。ただシャベルにしたのは広範囲をまとめてひっくり返すため。刺す、返す、刺す、返す。三回くらい繰り返すと違う感触に行き当たる。やわらかいもの、けれどそれが切れるような感触ではなくてそれを深くに押し込んだような、そんな感覚。大きさにあたりをつけてそれの外側からひっくり返す。それはふらふらと立って上を指した。  そんなに何回もある記憶じゃない。父が何を見つけたんだいと声をかけてくれたのは一回だけだった。だってその後父は病気になってすぐ死んだ。  思い出す。記憶の中の白飛びは確かにこれの形に戻って、全部上を指している。上を見上げて、空を見て、落ちてきたものを感じながら私の意識が飛んだ。
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