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倉庫として使っている一室に入り、スチールの棚に積まれている備品や買い置きの諸々の資材等を確認している時に、彼は数の食い違いに気づいた。
規模のある会社ならば人の数も多く疑う相手も増えるのかもしれないが、出入りする関係者含め10人もいない規模のこの店にそれほどの人もいない。
適度に掃除されているがうっすらと積もる砂埃の様子を見ながら、彼はもう一度見直して倉庫内から少しづつ持ち出されているものがあるのを確かめた。
貴重品では無い。
事務用品の封筒や使い切りのボールペン、ゼムクリップや画鋲。
袋の中に束にしてあった軍手、まだ未使用の掃除用の消耗品なども、パッケージや封を開けてあるものの中から抜かれている気配がある、同じものがある中から一つ……というものだ。
彼はそれらの棚を前に、顎に手を当てて考えた。
どうにもしっくりしない。
どこからか入り込んだ泥棒ならば狙うのは現金や金目のものだろう。
会社の中の者、ほとんど身内や友人同様の仲の者たちが倉庫に入り込んで持ち出すにしても、こんな物をくすねてゆくような真似もないだろう。
この地下室の倉庫は普段鍵をかけてはいないので、テナント内からならば誰でも出入りできる。
共に働いている者たちの顔を思い浮かべるが、誰も盗癖のあるようには見えない。
しかし自分たちが開店してから、このテナントを含む雑居ビル全体で何者かが忍び込んだりした、という話は特に聞いていない。
「人を見る目が無いのかな」
重大な損失ではない、だが信頼関係の問題だ。
気のせいだったらどれ程良かったことか……。
まだ誰がやったかまでは分からないが、性善説に拠らず、対処が必要ということなのだろう。
地下室の出入口のドアノブには鍵がついている、終業時にはこれを施錠するようにしておこうか。
ここの鍵はどこにあったっけな……。
彼は抜かれているらしきものを手帳にメモ書きし、ひとまず翌日再出勤してからこれからの対処を考えよう……と地下室から出た。
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