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④黄昏捜索隊再び
車を走らせながら、織田先生は黙り込んでいる。何が起こったか頭の中で整理しているのだろうか……。
「あの……。こんなことって今までにあったのですか?」
「ない! あるわけない!」
「じゃあ……。あの、今からどうします?」
「まず、C地点に向かう。そのどこかに水木さんはいたんだと思う。C地点に行った先生は水木さんを見つけた。そこまではいいとして、気になるのはスマホで連絡していて叫び声を出したと言う事だよ」
「それって、なんでしょう。そこでなにかあったんでしょうか。何かに襲われたとか……」
「わからんが、もうすぐC地点や。赤葉先生、周りを良く見とってや」
車が、橋を渡っている時だった。
「ああ!」
私は、見つけたのだ。川の中州にいる水木さんと1人の先生を!
ペアのもう1人の先生は、川岸でしゃがみこんでいる。
「ほんまや。発見したで。あれは多分中州から川岸に行けなくなったんやな。赤葉さん、他の先生に連絡して応援に来てもらって」
「わかりました!」
私は、スマホで先生方に現在地と状況を説明して救助の応援を乞うた。
でもなんでこんな状況になったのだろう……。なにがあったんだ?
真相は、よくある話だった。
下校途中の水木さんが、川の中州にいる子犬を見つけた。おそらく捨て犬だろう。水木さんの話によるとその時は川の水も多くなく靴が濡れるぐらいで中州まで行けたそうだ。
そこですぐに川岸に戻ればよかったのだが、子犬が可愛かったのでしばらく中州であそんでいた。気が付くと川の水量が増している。おそらく梅雨のせいだろう、今になって上流から流れてきたのだ。幸い中州が水没するほどではなかったが、岸に行くには恐ろしさを感じた。そこで長時間足止めを食ったというわけだ。
捜索隊の先生に発見されたが、先生も中州に行くまでがやっとで子犬と水木さんをつれて川岸までもどるには危険を感じたそうだ。そこでもう一人の先生が、水木さん発見の連絡をして応援を頼むことにした。
ところが、川岸でスマホを取りだしたものだから、連絡の途中で手を滑らせて水中にスマホを落としてしまった。それが、あの『あ!ああ!』という悲鳴だったのだ。だが、その後その辺の人に助けを乞うとか、スマホをかりるとかすればいいものを、ただオロオロと中州の2人を見守っていただけだった。そんなこんなしている時に私たちが3人と1匹を発見したというわけだ。
「織田先生どうやって中州の2人を助けるんですか。私たち2人でもまだ危ないような……」
その時、わさわさと応援の教員が川岸に到着した。若い体育の教員が、我先にと川に向かって行った。数人が手を持って支え合って2人と1匹を中州から救助した。さすが屈強な若者たちだ。
水木さんは、律儀に一人一人の先生に詫びてお礼を言っている。
水木さんの保護者も担任と一緒に到着した。
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