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期間限定鴨南蛮
俺はアニキと暮らしていた。男二人でむさいけど、アパート一室を割り勘して安く借りられたし、家事もアニキが率先してやってくれたから、暮らすのに苦労はなかった。
夜の八時すぎ。家のチャイムが鳴った。
「あれ? アニキ?」
ドアを開けると、照れくさそうに笑うアニキがコンビニ袋を両手に掲げて立っていた。
「鍵、失くしたみたい」
「……財布じゃなくてよかったな」
「ああ。それより、今日、月がキレイだったぞ」
アニキはそう言いながら背中の方を指さした。
「言われなくても。アニキの後光かってぐらい蘭々に満月が光ってるよ」
「ははっ。似合うだろ?」
アニキは笑いながら靴を脱いであがった。
「今晩は鴨南蛮そばだ」
リビングのテーブルに、アニキは同じパッケージのそばを二つ取り出した。コンビニの冷蔵ゾーンにあるような、プラ容器に入った鴨南蛮のそばだった。肉らしいものは見えるけど、鴨には見えなかった。
「これ、とり肉じゃないよな?」
「鴨って書いてあんだから鴨だろ? それより期間限定だってさ。ほら、マモルは期間限定に弱いだろ?」
俺は肩をすくめながらもうなずいた。
「アニキ譲りでな」
「チンするか? 冷たくても良いよな」
アニキはイスに腰かけてすぐに食べ始めてしまった。オレは逡巡したけれど、アニキと同様に冷たいままで味わうことにした。
「うん、うまい。な? マモル」
「そうだね」
二人で黙々と食べる。ズズッ……ズズッ……という音だけが部屋に響いた。
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