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「おれ、選挙でて当選してみせるわ」
刑務所から出た友人が、そんなことを言い出した。
何年かぶりに同窓会で会った彼は、自信たっぷりに「清き一票をよろしくな」と僕に握手を求めた。身なりは犯罪していた昔とは違って小綺麗にしているものの、その眼の奥にある闇は変わってない気がした。
「まさか。犯罪歴あるやつが、当選できるわけないだろう?」
鼻で笑った僕は、その手を払った。
邪険にされた彼はむっとして「見てろよ。当選した暁には、何でも言うことをきいてもらうからな」と人差し指を突き出してきた。
彼は昔から負けず嫌いである。
負けず嫌いが祟って、犯罪をしている奴に挑発され、応戦したら服役することになったものの、決してバカなやつではない。犯罪になるとわかっていてやっていた真性のワルだ。
しかし、悪知恵とはいえ、彼の頭脳は認めている。学歴のきちんとある僕と、中卒の彼が仲良くしていけるのには、それなりの理由があった。
「選挙でて、何がしたいんだ?」
「ぶっちゃけ金儲け。世の中はズル賢いやつが得する仕組みになってるからな。政治なんかまさにそれ」
刑務所暮らしで、職も失い、金に困っているのだろう。久々に会った今日も、金の無心をされないかと、僕は想定していたくらいだ。
まぁ、まだ、まともな職に就こうとしているだけ、友人としては応援してやらないといけないのかもしれない。無理だとは思うが……。
僕はそいつの背中をぽんと叩いて言った。
「ズル賢いお前にピッタリじゃないか」
「だろ?」
にやり、と笑った彼には、何か勝算があるようだった。
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