冷たい夫と新婚生活

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◇◇◇ 日も暮れ、辺りもすっかり暗くなってきた頃、リリスは食堂で一人食事を食べていた。食事の時間になってもダリウスは帰ってこなかったからだ。 十人以上は座ることができる広いテーブルで、ぽつりと佇み、料理を口に運ぶ。部屋の中には先ほど部屋まで案内してくれたノエの姿もあったが、いまは黙ってリリスの食事を見守るのが彼らの仕事である。もちろん話しかければ応えてくれはするだろうが、行儀が悪いと思ってリリスは静かに食事をすることにしたのだ。 (王城であの親子の話を聞きながら摂る食事も好きじゃなかったけれど、こんな広い部屋で一人で食事というのも味気ないわね……) なんだか最近は、ため息ばかりが出てしまうようでいけない。 望まぬ結婚だという事実は、ダリウスにとっても、リリスにとっても変えようない現実だ。だからといって、このままこんな生活を続けるのか。これからのことを思うと、なんだか憂うつな気分になる。 (とはいえ、何もしなければ現状は変わらないままだわ……) それを自分は望んでいるのか。自問自答すれば、自ずと答えは浮かんできた。リリスはフォークとナイフを持つ手に力を込めた。 居場所をなくし、窮屈な思いをして過ごしていた王城。そこから追い出されるような形とはいえ、離れることができたのだ。この機会を前向きに捉えて、新たな人生をここで始めたい、という思いがリリスにはあった。 (ここで私ができることは、何かしら) ぼんやりと、そんなことを考えながら新鮮で彩り豊かなサラダをパクりと食べた。 と、そのとき、部屋の外が何やら騒がしくなった。何事かと、リリスは扉の方へと視線を向けた。 「何かあったの?」 扉を開けて外の様子を見遣ったノエに尋ねる。振り向いたノエは、「いや、その」と何があったのか、どうやら言いにくい様子。リリスが首を傾げてそれを見ていると、扉が大きく開いた。 「ダリウス様……」 現れたのは、眉間にシワを寄せたリリスの夫、ダリウスだった。
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