冷たい夫と新婚生活

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新居へとやってきた翌日、リリスは食事を終えたあと、城内を案内してもらうことになっていた。 夫のダリウスからは「居住空間は別々」と言い渡されている。もちろん寝室を共にすることなく、昨夜は広々とした自室のベッドで眠ったおかげで、長旅の疲れもずいぶん回復した。昨日は「妻の役目を果たす」と宣言したが、向こうにその気がないのだ。 (寝室は別々でも問題ないわ……!) 半ば投げやりな気持ちで、ダリウスとのことは一旦横に置いておいて、リリスは自分がやるべきことをやると決めた。その前には、まず城のことを把握するところから始めなくてはならない。 「は、初めまして。案内役をつとめるユーリといいます」 案内役としてリリスの元へやってきたのは、ユーリという少年だった。銀髪に垂れ目がちな瞳。気弱そうな印象はあるものの、受け答えははっきりとしていて礼儀正しい少年だ。 「ここが応接室で、あちらには来客用の客室があります。といっても、こんな状態ですが……」 ルーナと一緒に応接室を覗くと、窓のカーテンは閉じられていた。陽の光が入っていないため薄暗く、少し不気味な空気さえ漂っている。 「部屋の数は多いようだけど、あまり使われている形跡はないわね」 「はい……。下の階にはパーティが開けるようなホールがあると聞いていますが、僕はまだ見たことがないくらいで」 応接室も、客間も整然としていた。よく見ると一部の部屋にはホコリが溜まっており、ほとんど使用されていないことがわかる。ユーリは「あまりこの城に、お客さまが来ることはありませんから」と、少し言いにくそうに呟いた。 「山奥ということもありますが、ダリウス様も、よく街へ出かけられていて、ほとんど城にいませんし……」 リリスは「街へ、ね」と呟いたあと、改めて部屋の中を見渡した。 「人を招くことはないとはいえ、いざというときに客間がこんな状態だと急な来客があったときの掃除が大変だわ」 リリスの言葉に、ユーリはしゅんと小さくなった。 「す、すみません……」 「別にユーリのことを叱っているわけではないのよ」 「でも、僕、掃除担当の一人なのに……。そんなところまで気が回りませんでした」 俯く横顔に影が落ちるのを見て、リリスは笑顔をつくった。
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