冷たい夫と新婚生活

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「ユーリはいつからここへ?」 リリスの問いかけに、顔をあげたユーリ。ただでさえ垂れ目がちな瞳だが、いまはそれに拍車がかかっている。 「……半年、くらい前からです」 「まだ半年なら、わからないことはたくさんあって当然よ」 そう言われて、ユーリはほんの少し表情を和らげた。 「そ、そういうものですか……?」 「ええ、だからそんな顔しないで。掃除のことで何かわからないことがあれば、私の侍女のルーナに聞くといいわ」 にこりと笑うリリスの横で、ルーナが腰に手を当てて「お任せください」と応えた。「ありがとうございます」と元気な声が返ってきて安心したリリスは、「それはともかく」と話を切り出した。 「衛生環境が悪い場所は、菌が蔓延しやすくなるわ。せっかくだから、今日は部屋の掃除をしましょう」 ルーナはうんうんと頷きながらリリスの話を聞いていたが、そのあとに続いた「私も手伝うから」という言葉に、上下していた首が止まった。大きな丸い目をカッと見開いて驚いている。 「わ、私も手伝うってリリス様が……⁈」 にこりと微笑んでいるリリスに、ぱちくりと目を見開くユーリ。「ええ、もちろん」とにこりと笑う主人に、ルーナは慌てて詰め寄った。 「そ、そんなこと、リリス様にさせられませんよ!」 「そうです!リリス様は、ダリウス様の奥方様なんですから!」 これにはさすがのユーリも驚いたようで、ルーナ同様にリリスのことを引き止める。だが、当の本人はそんなことなど露とも気にしていない様子。ちょうど昨日「勝手にしろ」と言われたところだ。 (だったら、好きなようにさせてもらうわ) 目を丸くする二人を前に、「こう見えて、私、結構お掃除は得意なのよ」と、リリスは美しく微笑んだ。
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