政略結婚

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政略結婚

「私が結婚、ですか」 それは唐突な話だった。家族で食事をしている最中に、突然リリスの結婚についての話題があがったのは。 「お前も、もう今年で18だ。結婚するにはちょうどいい年頃だろう」 白髪頭に、ぽっちゃりとした中年男。リリスの父であり、この国の国王でもあるフランシスは、大きくカットしたステーキを、口いっぱいに頬張りながらそう言った。まるで雑談のひとつかのように、告げられた結婚の話に、リリスの手は止まってしまった。 「それは、そうですが──」 「あら、何か不満でもあるって言うのかしら?」 言葉に詰まるリリスに、横槍を入れたのは継母である王妃オフィーリアだ。狐のように釣り上がった瞳に、高い鼻、真っ赤なルージュをキラキラと輝かせた唇。意地の悪い笑みを浮かべる王妃に、リリスは顔を俯かせて「いえ」と返すほかなかった。 「王家の女は、国の繁栄のため代々有力者たちと婚姻を結んできたのよ。あなただって、もう子どもじゃないのだから、いつまでもこの城にいるわけにもいかないでしょう」 「……おっしゃる通りです、オフィーリア様」 反論など許さないと言わんばかりの表情に、言葉を飲み込む。リリスは手のひらをギュッと強く握りしめ、顔をあげた。
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