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それから十数分後。
「床拭き対決って、なんなんですか⁈」
「どちらが早く床を拭けるかよ。単純なルールで、分かりやすいでしょ?」
「そういうことを言っているのではなく!」
ルーナが声を荒げて詰め寄ってくるのをよそに、主人のリリスは雑巾をギュッと絞っていた。ただ掃除をしていただけなのに、いつの間にか対決することになっている。
リリスに掃除をさせることすらためらわれるのに、こんな事態になってしまうとは。ルーナは、王城の侍女たちから「リリス様のことを任せた」と頼まれたことを思い出し、顔面蒼白になった。
「リリス様、仮にも一国の王女であった貴女が床拭きだなんて!」
「あら、いまは王女じゃないわよ?」
「だから、そういうことを言っているのではなく!」
あたふたするルーナを横目に、「じゃあ、始めましょうか」と声をかけるリリス。
「失礼ですが、あんたみたいな女が勝てるとは思わねぇんだが」
アベルの挑発に、リリスはにこりと笑って「やってみないと分からないでしょう?」と言った。動きやすい服装にまで着替え、やる気は十分だ。
「その心意気は感心ものだが、勝つのは俺ですぜ?」
「どうかしらね」
いよいよ始まってしまった床拭き対決に、ルーナとユーリを除いた周囲の者は盛り上がっていた。
ルールは簡単。長い廊下の端から端までを、どちらが早く拭き終わるかというものだ。お互い位置について体勢を整える。
「勝った方には、なにかあるのか?」
アベルの言葉にリリスはう〜んと一考したあと、「『勝者が敗者の言うことをなんでも聞く』でどうかしら?」と続けた。
「そりゃあ、いい」
ニッと笑ったアベルは「ユーリ!」と声をあげた。オロオロしつつも、ユーリは「位置について」と二人に告げた。
緊張感が高まる。リリスはグッと手に力をこめると、小さく息を吸った。「よーい」という声に意識を集中させて、前を見据える。
「ドンッ!」
ユーリの声が響いたと同時に、勢いよくスタートする二人。そんな二人の後ろから、ルーナが「はぁ……」と大きなため息をついて見つめていた。
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