冷たい夫と新婚生活

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◇◇◇ 「さあ、今日も城の掃除に取りかかるわよ」 うららかな日差しが心地よいある朝、食事を終えたリリスは、ほうきを片手にそう言った。ここ数日で、すっかり城の掃除が日課になり、今日も使用人を何人か集めて客間の掃除をしていた。 「すっかりほうき姿が板についてますね」 「城のみんなが知ったら、私が怒られそうですけど」と、がくりとうなだれながら続けたルーナに、リリスは「あら、そうかしら?」と返す。 「あの子たちなら、一緒になって掃除を手伝ってくれそうだわ」 ニコニコと楽しそうに、そう語る主人。ルーナはその光景を思い浮かべてたのか、「確かに」と呟いた。 「また手紙を書かなくちゃいけないわね」 「きっと喜びますよ、みんな」 彼女らを懐かしむような横顔に、ルーナは励ますように明るくそう言った。「そうね」と返ってきた笑顔に、ホッとしたルーナ。慣れない場所で、きっとリリスも心細いのだろうと思い、自分がしっかりしなければと決意を新たにした。 「リリス様、シーツ替え、終わりましたよ!」 洗濯カゴを手に持ったユーリがリリスの元へと駆け寄ってきた。 「ありがとう、ユーリ」 にこりと笑うリリスに、ユーリは照れくさそうに笑う。褒められて嬉しそうな様子にルーナはハッとして、慌てて自分も仕事に取り掛かった。 「あ、あの〜……。リリス様」 今度は後ろから聞こえてきた声に振り向くと、掃除を手伝ってもらっているほかの使用人たちがそこにいた。恐る恐るという感じで、皆どこか不安げな瞳をしている。すっかり黒くなった雑巾に気づき、リリスはにこりと微笑んだ。 「もしかして、あっちの拭き掃除は終わったのかしら?」 「は、はい!」 「ダリウス様にお仕えするだけあって、みんなとても優秀なのね。仕事が早くて助かるわ」 リリスがそう言うと、使用人たちの表情がパァと明るくなる。 「お、俺は窓拭きもしておきました!」 「床磨きならお任せください!」 「次は、どこの掃除をしますか⁈」 ユーリ同様、リリスに詰め寄ってくる使用人たちに、リリスは目を丸くした。恐々としていた様子だった彼ら彼女らだったが、どうやら不安のタネは解消されたらしい。 「じゃあ、各部屋のカーテンを取り外して洗濯しましょうか。干し終わったら、休憩にしましょう」 リリスの提案に「はい!」と元気のよい返事が返ってくる。すっかり使用人たちに懐かれている主人を見て、ルーナは改めてしっかりしなければと自分の立場に危機感を覚えるのだった。
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