政略結婚

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「夫となる方は、どんなお方なのですか?」 そう尋ねれば、今度は隣に座る王妃の実の娘エリーゼがにっこりと笑う。 「元特務騎士団団長のダリウス・クロフォード様ですって」 「ダリウス、様……」 「あの大魔獣ガルガドスを倒した我が国の英雄ですよ?お姉様のお相手にぴったりのお方じゃありませんか」 花のような笑みを向けてリリスを祝福するエリーゼ。だが、本心ではが結婚相手となったことを嘲笑っているのは、リリスには容易に想像できた。 「異存ないでしょう?」 にやりと笑う王妃。きっと、この婚姻話もオフィーリアやエリーゼの策略のひとつなのだろう。リリスをこの城から追い出すために、二人が考えそうなことだ。 「出自はともかく、我が国を救ったあの者の力は、魔獣退治だけでなく、いずれ国難が訪れたときの大いなる力となるでしょう。この結婚で、その結びつきを強くしておけばブルタージュも安泰よ」 「国のため」などと、もっともらしい理由を並べたところで、別の思惑があるのは明らかだった。けれど、だからといって、リリスにはこの結婚を退けるだけの力などない。国王の(めい)とあらば、たとえ実の娘でも逆らうことはできないのだから。 リリスは最後の望みをかけ、父を見た。だが、食事に夢中の国王の瞳に娘の顔が映ることはなかった。 「……わかりました」 こうして、リリスは生まれ育った城を出て、よく知りもしない男のもとへと嫁ぐことになったのだ。
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