疑惑

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「何だ、お前ら……」 そこにいたのは、ベッドの脇にあるイスに腰掛けるダリウスと、その後ろに立つクロード、そしてベッドに横たわる一人の女だった。中はやや薄暗く、うっすらと埃が舞っているような場所である。 リリスに気づいたダリウスは、目を見張っていた。しかし、すぐに「何しに来たんだ」と口を開き、切れ長の瞳で彼女を睨みつけた。リリスの隣では、ノエが体を縮こませて二人の様子を伺っている。 「私は──」 「俺が、この場所を教えました」 緊迫した雰囲気のなか、ことの次第を弁明しようとしたリリスの前に出たのは、クロードだった。 「なんだと」 ダリウスは眉間のシワを深くしてクロードを見た。クロードはリリスの隣に立つと、ちらりとリリスに視線を向ける。大丈夫だと訴えるような目にリリスは小さく頷けば、クロードは主人の方へと向き直った。 「……リリス様は、ダリウス様からニンギスの薬草の香りがするとお気づきになりました。この薬草が、何に使われるのかもご存じだったようです」 クロードの言葉を、ダリウスは黙って聞いていた。 「薬草学の知識がある彼女ならもしやと、私が勝手にリリス様をお呼び立てしました。ダリウス様に黙って、このような真似をして申し訳ございません」 謝罪の意を述べるクロードから、ダリウスはふいと視線を逸らし、背を向けた。だが、クロードは構わず話を続けた。 「……もっとも、お呼びする場所がですので、リリス様が来られるかどうかは、半信半疑でしたが」 クロードは改めてリリスを見ると、「まさか本当に来るとは」と苦笑した。 リリスはダリウスの背中を見つめた。彼の視線の先には、ベッドの上に横たわる女がいる。年は30くらいにも、50くらいにも見えた。体中のあちこちの皮ふがただれて痛ましく、容態が思わしくないのは明らかだった。 「ダリウ──」 「帰れ」 静かな室内に、ダリウスの低い声が響いた。 「……どういうつもりで、こんなところまで来たのか知らないが、俺に干渉するなと言っただろ」 ダリウスの言葉に、俯くリリス。勢いでここまで来たが、自分のことを嫌っているダリウスからすれば迷惑なことこの上ないだろう。けれど、リリスにはそれでも、ここへ行こうと思った理由があった。 「……出すぎた真似をしていることは百も承知です。あなたが腹を立てるのも当然のことでしょう。ですが──」 リリスはダリウスの向こうに横たわる、女の姿を見つめた。 「その病は、特別な治療をしなければ治らないことを、私は……知っています。私の母が、患っていた病と同じですから」
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