疑惑

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リリスの言葉に、クロードもダリウスも驚いているようだった。 「そう、だったのですか……」 リリスがニンギスの薬草について、やたらと詳しかったのはそのためだったらしい。クロードは、彼女が「護衛係の男から聞いた」と話していたときのことを思い出した。 「苦しそうな母を見ているのは辛かったです。ただれた皮ふが痛むのだと、夜も寝れないと苦しんでいたこともありました。専門知識のある者に正しい治療法を教えてもらってからは、母の容態はよくなりましたが……。あのとき苦しんでいた母の姿はよく覚えています」 リリスはダリウスの後ろにいる女の方を、じっと見つめた。 「もし同じ病で苦しんでいる人がいるのなら……お役に立てることがあるかもと」 だから、こうしてここまで来ましたと語るリリスのに、ダリウスは険しい表情を崩さぬまま、ただじっと彼女のことを見つめていた。すると、「ゴホッ、ゴホッ」と苦しそうに咳き込む声が聞こえてくる。 「マチルダ、大丈夫か」 ダリウスがベッド脇によると、マチルダと呼ばれた女は、うっすらと目を開いた。 「だれ、か……きたの……」 かすれた声でそう尋ねたマチルダの目がゆっくりと、リリスの方へと向いた。 「あ、なたは……」 マチルダの問いかけに、リリスはどうしようかと一瞬、言葉に詰まった。この場で、自分をなんと紹介すればいいのかと。そんなリリスに、そっと手を伸ばしてきたマチルダ。リリスはそれに気づくと、その手を迷いなく取り、痛くならないよう、やさしく握りしめた。 「リリスといいます。こんにちは、マチルダさん」 にこりと笑って、そう返せばマチルダの表情がほんの少し和らいだように見えた。 「き、れい……な、ひと、ね……。わた、しも……あなた、みたいないろ、の……くち、べにを、よく、つけてたわ……」 リリスはベッド脇へと近づき、マチルダとの距離を縮めて彼女の話に耳を傾けた。遠くの方からは、夜の街の喧騒が聞こえてきたが、部屋の中はとても静かだった。 「こん、な……ばしょには……だれも、こない……から。だり、うす、さま……と、くろーど、さま……いがいが、きたのは……ひさしぶり、だね……」 「……そうでしたか」 マチルダがここに住んでいるということは、以前は娼館で働く一人だったのだろうということが想像できた。 話を聞けば、彼女は店一番の人気者だったらしい。そういう理由もあってこんな状態になっても、情けで彼女を離れに置いているが、以前は顔を見せにきていた同僚たちも、原因がわからず、病が悪化してきたマチルダに、最近では近づこうとしなくなっているとのことだった。 「おい」 後ろから声をかけられ振り向くと、相変わらず険しい顔のダリウスと目が合った。リリスは「なんでしょうか」と返して立ち上がり、ダリウスと向き合った。ダリウスはリリスの瞳をじっと見つめ返すと──。 「……治すことはできるのか」 と、静かに問いかけた。
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