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そこからの記憶は曖昧で、気づいたときには倒れた大魔獣の上に血まみれで立っていた。
降りしきる雨のなか、周りには無惨な姿となった大勢の仲間たち。あれだけ望んでいた勝利だったはずなのに、達成感なんてものは皆無だった。
ふと視線を下げれば、赤く染まった両手。失った仲間たちの血で染まった自分の手。
『い、嫌だ!死にたくないっ!!助けてくれっ!!!!』
記憶の最後に聞こえた絶叫が、こびりついて離れない。
『やめろ……』
迫ってくる血まみれの仲間たちの顔。血の海になった戦場。目の前で食い殺された友の姿。まるで忘れるなと言っているように何度も見る光景に、気が狂いそうだった。
『もう、やめてくれっ……』
と、そのとき──。
「……ウス様、ダリウス様っ!」
体を揺らされハッと目覚める。そこには、心配そうにダリウスのことを覗き込むリリスの姿があった。リリスは眉を下げ、「大丈夫ですか」と、焦った様子でダリウスのことを見つめている。
「ひどくうなされていたようだったので……。悪い夢でも見ましたか」
気づけば息も荒く、汗もかいていた。いつの間にか、ソファで眠ってしまっていたらしい。徐々にクリアになっていく頭に、ダリウスは小さく息を吐いた。
「水をお持ちしましょうか?」
何も言わないダリウスを余計心配した様子のリリス。
「いや、いい……」
ダリウスはそれだけ言うと片足を立てた状態で目元を手で覆い、呼吸を整えることに集中した。いつもなら、そうすれば次第に心は落ち着いた。けれど、どうしてか今日は、言いようのない苦しみが一向に消えてくれず、心を落ち着かせることができない。
「でも、汗をかいてるみたいですし、何か口にされた方が──」
何とかしなければ、とでも思ったのだろうか。その手が、そっとダリウスの腕に触れようとした。その瞬間に思い出す、血濡れた両手。
「俺に触るな!」
強い口調で、そう言い放ったダリウスはリリスの手を跳ね除けた。
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