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王都でのパーティ
「今日もダリウス様はいらっしゃらないの?」
朝食を食べるため広間へ向かっていたリリスは、側にいたノエにそう問いかけた。
「えっと、はい……」
言いづらそうに返したノエに、リリスは苦笑した。初めてここへ来たときも、ノエとそんな会話をしたことを思い出したからだ。
あのときも、ダリウスはリリスのことを避けていて、会うたびに鋭い瞳で見つめ返されていたものである。そんなダリウスとマチルダの一件以来は少しずつだが、関係がよくなってきた兆しが見えていた。けれど──。
『多くの仲間を失った俺の苦しみが、お前に分かるはずもない。……戦場から離れた城の中で幸せに暮らしていた、お前にはな』
あの夜をきっかけに、ダリウスとリリスはまた以前のような関係に戻ってしまった。せっかく少しずつ縮まってきていたかのように思えたが、いまは元通り。むしろ、これまでよりも悪くなっているのではないだろうか。
「そう……なら仕方ないわね」
小さく呟いたリリスは、そのまま広間に向かうことにした。
「いつも俺にダリウス様のことを尋ねられますが、何か御用でもあるのですか」
心配そうにリリスを覗き込むノエに、リリスは「ええ」と返す。
「今度、妹のエリーゼの誕生日パーティが王都で開かれるから、同伴してもらおうと思ってたんだけれど」
「だったら、俺が代わりに伝えましょうか?」
ノエの言葉に俯くリリス。
「……ううん、いいわ。きっとダリウス様には、王族のパーティなんて苦痛でしかないでしょうし」
本当は顔を合わせようと思えば、食事の場以外でも会うことはできる。それをリリスがしないのは、まだパーティにダリウスを誘うことをためらっているからだった。
「私一人で出席するから、このことは伝えなくていいわ」と続けたリリスに、ノエは心配そうな表情を浮かべながら「いいんですか」と投げかけた。
「俺は、あまり詳しくないですが、そういうパーティってパートナー同伴で参加するものじゃないんですか?」
「それは、そうだけど……。必ずそうってわけでもないから大丈夫。結婚していても一人で参加する方も多いの。寄りたいところもあるし、この際だから王都でゆっくりしてくるわ」
そう言って、にこりと微笑むリリス。そこまで言われては、ノエもこれ以上返すことはできなかった。「承知しました」と返事をすると、たどり着いた広間の扉を開け、彼女を中へと案内した。
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