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「ご存じかと思いますが、私とダリウス様は愛で結ばれた結婚ではありません。建前上の理由は別にあるものの、王家とダリウス様、双方に利があるため合意となった政略結婚であることは……周知の事実です。そういうこともあって、最初は私たちの間にも距離がありましたが、マチルダとのことをきっかけに、少しずつ、その距離が縮まってきていました。でも……」
そこで表情が暗くなったリリスを見て、マチルダはそっと先を促した。
「でも……?」
「差し出した手を、取ってもらえませんでした……。苦しんでいるあの人を助けてあげられたらと思っていますが、その必要はないと一刀両断されました。私のやっていることは『偽善』なのだと。そうやって拒絶されている彼と、今後どう接していけばいいのか、わからなくて悩んでいます……」
話をじっと聞いていたマチルダは、「リリス様」と慈愛に満ちた眼差しでリリスを見つめた。
「リリス様は……どうしたいですか」
「私が、どうしたいか、ですか……?」
「ええ、ダリウス様のことは一旦おいておいて。自分の心はなんといっていますか」
尋ねられて、しばらく考えこむリリス。拒絶されたことばかり気にしていて、自分がどうしたいかなんて今まで考えたこともなかった。
(私が、どうしたいか……)
と、じっくり考えて出てきた答えは──。
「私は……拒絶されても、また手を差し伸べ続けたいです」
リリスは自分の手のひらを見つめながら、そう言った。
触れようたした手は振り解かれた。「助けなどいらない」と告げられ、「偽善者だ」と言われたけれど、苦しそうにうなされていたダリウスの姿を思うと、自然と手に力がこもる。
答えを出したリリスに、マチルダは笑いかけた。
「だったら、リリス様はリリス様のしたいようにすればいいだけです。ほかの誰かに言われたからではなく、あなた自身がそうしたいからと思うことを、すればいいんですよ。……その思いは、たとえ時間がかかったとしても、きっといつかダリウス様にも届くと思います」
マチルダはにこりと笑って、そう言った。胸の内を吐露することで、幾分心が晴れたのか、リリスの表情も明るくなった。
「そうですね……。私のやりたいことをやる。それでダメだったら、そのときはそのとき、くらいの気持ちでいた方がいいのかもしれませんね」
「そうですよ!」
「よし!」と、気合いを入れて両手をグッと握りしめるリリスに、マチルダもエールを送ったところで、「あ、そうだ!」と声をあげた。
「ダリウス様の好きな料理を作って差し上げるのはどうですか?」
「料理、ですか?」
首を傾げるリリスに、マチルダはふふんと自慢げに笑った。
「相手の心を掴むには、『胃袋から』と言うでしょう?」
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