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部屋に戻ったリリスは、扉に背を預けてその場に座り込んだ。
(私は、何を期待していたの……)
好物の手料理を振る舞えば喜んでもらえる。おいしいと言ってもらえるかもしれない。それがきっかけで仲直りができたらと、多分、そんな淡い期待を抱いていた。けれど──。
『……俺は『偽善』だと言っただろ』
眉間にシワを寄せ、冷たく響いた声。返ってきた反応や言葉は、リリスの想像していたものと真反対のものだった。
『……お前は俺を助けたいと言うが、俺はそれを望んでいない。それなのに、俺を助けようとするのは、お前がいいことをして気持ちよくなりたいからだ』
あのとき言われた言葉が蘇る。
(また私は間違った……)
初めて出会った結婚式当日、ダリウスには「この結婚は自分が望んだものじゃない」と宣言されている。王家の人間を嫌悪しているのも知っている。「助けなどいらない」とも言われたばかりだ。
『もともと政略結婚なのですし、それならば割り切って互いが好きなように暮らす方がよっぽどいいのではありませんか』
わざわざ大変な思いをしてまで、距離を縮めようなんて思わず、クロードに言われた通り、互いに干渉せずに生きていく方がずっと楽なのかもしれない。なのに──。
(それなのに、どうしてこんなにも気になるの……)
自分の夫だから?
国の英雄だから?
思い通りにならないのが嫌だから?
かわいそうだから?
頭に浮かんだ言葉は、どれもしっくりこなくて違う。
リリスは膝を抱きしめて顔を伏せた。
『よくこんな料理を人に出せたな』
そう言われた瞬間、心臓を突き刺されたような痛みが走った。いまもそう。胸がこんなにも痛むのは、それくらい嫌われているのだと、見たくない現実を突きつけられたからだった。
リリスはそれからルーナが部屋に戻るまで、立ち上がることもできず、膝を抱えてうずくまっていた。
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