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それから1時間もしないうちに、出発の時間を迎えた。
「いってらっしゃい、リリス様!」
元気いっぱいに手を振りがら見送ってくれるユーリに、リリスはにこりと笑って手を振りかえした。その隣にはマチルダ、アベルなど他の使用人たちもいる。リリスの顔には、もう暗い表情は浮かんでいなかった。
今日から数日間、リリスは妹エリーゼの誕生日パーティ出席のため王都へ向かう。
結局、ダリウスには直接誕生日パーティのことを言えぬままの出立となってしまった。ノエにも指摘された通り、こういったパーティでは通常パートナーを伴っての出席することが多いが、リリスにはダリウスにそれを申し出るほどの勇気がもてなかった。とはいえ、先ほどの件もあるので、これでよかったとも思う。
(どうせ周りも愛のない政略結婚だと知れ渡っているもの……。今さら体裁を取り繕わなくたっていいわ)
窓の外を眺めながら、リリスはぼんやりとそんなことを思った。
麗らかな天候とは裏腹に、気分はずしりと重い。いっそこのまま、どこか遠くへ行って逃げ出してしまいたい気持ちに駆られながらも、リリスは手元にある手紙へ目を通した。
異母妹のエリーゼからの手紙には、「あの英雄、ダリウス様と結婚できるなんて羨ましい」「お二人にお会いするのを楽しみにしています」などと、可愛らしい字で書かれている。
「はあ……」
これから起こるであろうことを想像すると、さらに気分は重くなった。そんな物憂げな主人を、ルーナが心配そうに見つめていた。
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