王都でのパーティ

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◇◇◇ 「ダリウス様……。リリス様は、王都に向けて出発されましたよ」 ダリウスの私室へやってきたクロードは、「ノエから事情は聞いていましたが、本当にパーティに出席されなくていいんですか」と、窓の外を見つめる主の背中にそう問いかけた。リリスからは黙っていてほしいとのことだったが、ノエはクロードに王都で開かれるパーティのことを伝えていた。 黙ったままのダリウスに、クロードはテーブルにお盆をことりと置いたあと、そっと近づいた。 「どうして、今朝、あんなことを言ったんですか」 「……なんの話だ」 「さすがにひどいと思います」 振り向きもせず、黙ったままのダリウスにクロードは俯いた。 「……リリス様をそこまで突き放されるのは、彼女が王家の人間だからですか?それとも、別の理由があるんですか」 顔を上げたクロードは、再度ダリウスの背中を見つめた。その背中が、今はひどく寂しげに見えた。今日だけではない。クロードは、そんなダリウスの背中をこれまで何度も目にしていた。いつも、その背中に何も声をかけてやれず、ただ見ているしかできなかった自分。 意を決して、ぐっと手を握りしめる。 クロードは「これは、俺がリリス様の侍女から聞いた話ですが」と前置きをして、こう続けた。 「リリス様は、目の前で魔獣に食い殺され……お母様を亡くしたそうですよ」 その瞬間、ダリウスの体がピクリと動いた。 「魔獣に……?」 ゆっくりと振り向いたダリウスは、目を見開いて驚いているようだった。 「ええ。リリス様のお母様は、魔獣によって殺されたそうです。……王家の人間が魔獣に殺されたとなれば、国民にも動揺が広がってしまう。彼らはパニックになることを恐れ、表向きは『病死』と公表したそうですが」 沈うつな表情を浮かべるクロードの顔が、それが事実であると物語っていた。 「……いつも明るく、朗らかに笑っている方なので、そんな過去があると聞いたときは俺も驚きました。俺たちのような人間とは別世界の、王城という守られた環境で贅沢な暮らしをし、幸せに生きてきたのだと、ずっとそう思っていましたから」 クロードの言葉に、ダリウスはギュッと手のひらを握りしめた。 「自分が暗い表情をしていると、周りまで暗い気持ちになってしまう。リリス様がいつもにこやかに笑っているのは、周りの人間を、そんな気持ちにさせたくないからなのだと、ルーナがそう話していました」 ダリウスから何も言葉が返ってこないことに、クロードは顔を俯かせた。やはり、自分のこんな言葉ひとつで何とかなる話ではなかっただろうか、と弱気になる。けれど。 『私は初めから何もしないまま、一生夫である彼を理解することを放棄して、このような関係を続けたいとは思いません』 あのときの、リリスの目を信じてみたかった。彼女なら、彼を救ってくれるのではないかと思った、あのときの淡い期待を。 「……クリームシチュー、食べてみてはいかがですか」 そう続けたクロードに、ダリウスはゆっくりと振り返り、テーブルの上の皿をじっと見つめた。
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