王都でのパーティ

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リリスが声の方に目を向けると、そこには濃紺の上品なダキシードを身に纏ったダリウスがいた。音楽は止み、静まりかえる広間の中で、突然現れたダリウスにみなの視線が集まっている。 「あ、あのお方はどなたなの?」 「とても素敵な御仁じゃない!誰のパートナーなのかしら」 いつもは下ろしている前髪はオールバックにされていて、雰囲気ががらりと違う。気品あふれるその姿に、会場にいる者みながダリウスに目を奪われていた。あのエリーゼでさえ、頬を染めて見惚れているほどである。 「ダリウス、様……」 一方のリリスは訳がわからず、ただただ呆然とするばかり。昨日、冷たい態度でリリスを突き放したダリウスが、なぜここにいるのだろうか。そんなリリスをよそに、ダリウスは迷わず、まっすぐにリリスの元へと歩いてくる。 (どうして……) 頭の中はぐちゃぐちゃで、訳がわからなかった。リリスの目の前へとやってきたダリウスは「リリス」と、その低い声で妻の名を呼んだ。リリスは不安げな瞳で、そっとダリウスの顔を見上げた。 「来るのが遅くなってすまない。…‥リリスに似合う、髪飾りを探していた」 そう言って開いた手のひらの上には、青い花が散りばめられた髪飾り。青いドレスを身に纏っているリリスに、よく似合いそうな髪飾りだった。 「どうして……今日のことなんて、私一言も……」 「ノエとクロード経由で聞いていた。……気を遣わせて悪かったな」 ダリウスはそう言うと、そっとリリスに近寄った。背の高いダリウスが近づくと、リリスは自然と見上げる形になる。アッシュグレーの澄んだ瞳には、リリスの顔が映っていた。 「あ、あの……っ」 いまだ混乱状態のリリスにふと口元を緩めると、ダリウスはそのまま頭にそっとキスを落とした。 「ダ、ダリウス様……っ!」 こんなところで突然、と頬を赤らめ戸惑っているリリスに、ダリウスはふと笑う。そして、手にしていた髪飾りをリリスの髪につけてやったあと、耳元で「似合ってる」と囁いた。 甘く響いた低い声に、リリスの胸がドキリと音を立てる。「あ、ありがとうございます」と、恥ずかしそうに胸を押し返して距離を取ると、ダリウスは今度はエリーゼの方を見た。 「エリーゼ姫」 名前を呼ばれたエリーゼはハッとして、「お義兄さま、お久しぶりです」と作り笑いを浮かべた。ダリウスは表情を変えぬまま頭を下げる。 「遅くなりましたが、この度はお誕生日おめでとうございます。到着が遅れ、申し訳ありませんでした」 きちんと礼儀をわきまえた態度に、エリーゼは呆気にとられているようだった。 「い、いいんですのよ。こうやって来てくださったんですから。今からダンスパーティーが始まりますから、どうぞお楽しみになってください」 口元を引きつらせながら、にっこりと微笑むエリーゼ。その様子に、リリスの近くに立っていたベリックがすがるような目を向けていたが、エリーゼはふんと鼻を鳴らして一瞥したあと、くるりと背を向けた。 「では、皆さま。仕切り直して、ダンスパーティを始めましょう」 パンパンとエリーゼが手を叩くと、再び演奏家たちによって音楽が奏でられる。俯いたエリーゼは、奥歯を噛み締め怖い顔をしていた。
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