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◇◇◇
(なんなの、あれは!)
夫婦仲が悪いらしく、今回のパーティは欠席だと聞いていたダリウスが会場へとやってきて、エリーゼは内心苛立っていた。せっかく姉を大勢の前で辱めることができて気分がよかったのに、これでは計画が台無しである。
しかも、現れたのは、この会場内のどの男性陣よりも目立つ男。もともと端正な顔立ちの男だったが、今日は一段とその端正ぶりに磨きがかかっているように見える。それがあの姉の夫なのだと思うと、より一層エリーゼの気分は悪くなった。
(まあ、いいわ。どうせ、平民出身の男だからダンスもろくに踊れやしないでしょ)
ふんと鼻で笑いながら、エリーゼは婚約者候補にと目をつけている男の元へと向かい、ダンスを楽しむことにした。
「グレイ様、さあ一緒に踊りましょう」
「あなたのダンスの相手を務められて光栄ですよ、エリーゼ姫」
白銀の長い髪をひとつに束ね、恭しく一礼するグレイもまたダリウスに負けず劣らず麗しく、気品溢れる男だった。豊富な鉱脈をもち、大いに栄えている隣国サンドリアの第一王子である彼は、将来の有望株。やさしげな雰囲気と、甘やかな瞳にエリーゼは満足そうに笑った。
優雅な音楽が奏でられる会場内で、色とりどり、華やかな衣装に身を包んだ紳士淑女たちのダンスパーティが始まる。
「エリーゼ様の婚約者候補の筆頭は、やっぱりグレイ様かしら」
「お二人ともダンスがとってもお上手だわ」
そんな声に、エリーゼはほくそ笑んだ。見目麗しい男を相手に場の中心で、周囲から注目を浴びて踊るのは、とても気分がいい。華麗なダンスなど、ダリウスには到底できない芸当だろう。そう思って、エリーゼは周囲を見渡したのだが──。
「見て、リリス様とダリウス様!」
「あんなに素敵なダンスを踊られるなんて!」
「お二人が並ぶと、とっても絵になるわ!」
周りの視線を集めていると思っていたエリーゼだったが、会場内の半数以上は少し離れたところでダンスをする姉と義兄に向けられていた。興奮気味に話す女たちは、ぽおっとうっとりとした目で二人を見つめている。
(な、何よ、あれ!)
ダンスなど踊れないだろうと思っていたダリウスだが、ステップを踏む姿は優雅で様になっており、上手にリリスをリードしていた。
ときおり顔を近づけて踊る二人は仲睦まじそうに見え、「夫婦仲が悪い」なんて噂は嘘ではないかと思うほど。
「ほお……」
何より楽しそうに笑う姉を自分のダンスの相手であるグレイが興味深そうに、じっと見つめているのが、エリーゼには腹立たしくてならなかった。
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