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「クロードから母親の話も聞いた……。無神経なことを言って悪かった」
ダリウスの謝罪にリリスは目を見開いたあと、頼りなく笑い、首を左右に振った。
『多くの仲間を失った俺の苦しみが、お前に分かるはずもない』
『戦場から離れた城の中で幸せに暮らしていた、お前にはな』
「いいんです……。確かに、私は魔獣に母を殺されました。けれど、戦いの中で多くの仲間を失ったあなたの苦しみは、計り知れないものでしょう。私には……想像することすらできません」
リリスはそう言うと、そっとダリウスを見た。
「私は母を魔獣に殺されましたが……、一人その場に佇んでいた私を助けてくれたのが、特務騎士団の団員の方でした」
その言葉に目を見張るダリウス。
「そのときの記憶はショックが大きかったからか、途切れ途切れですが、足がすくんで動けなくなった私の前に現れた背中の、獅子の紋章は覚えています。……『常に勇猛果敢であれ』との思いが込められた、あの紋章を」
それからリリスはそっと手を伸ばし、ダリウスの両手を握りしめた。ゴツゴツとした手は自分よりも大きく、戦士の手をしていた。
ダリウスを見つめたリリスは、小さく微笑む。
「明日、ダリウス様と行きたいところがあります。一緒にいらしてくれますか?」
そう言って、夫の顔を真正面から見据えた。
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