王都でのパーティ

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「ダリウス様!」 リリスも慌ててあとを追うと、ダリウスはキャンドルに囲まれた教会の真ん中でリリスに背を向け佇んでいた。どうしたのだろう、と思ったところで、その肩が小さく震えていることに気づく。 ついには立膝をついて座り込むダリウス。それを見てハッとしたリリスは勢いよく駆け出すと、そのままギュッとダリウスの背中を抱きしめた。 「離せ──」 「離しません!」 小さく見えたその背中を、力いっぱい抱きしめる。こんな姿を見せるのは心外なのだろうと思う。けれど、今この手を離してはいけないと思った。 「……離しません」 大丈夫と伝わるように、できるだけやさしい声でそう言った。 「……ゆっくりと、弔う時間もなかったのでしょう?戦いが終わったあとも、あなたは後処理や復興のために忙しく働いていたと、クロードから聞きました」 リリスの言葉に黙っていたダリウスだったが、しばらくしてから、おもむろに口を開く。 「何かしていれば気が紛れた。考えなければいけないことも、考えたくないことも、その瞬間は忘れられる。でも、ふと時々思い出す。……どんなに願っても、もうあいつらには会えないことを」 ダリウスはそう言って、手のひらをギュッと握りしめた。 「大事な、仲間だった……。かけがえのない存在だった……。みんな一つの目標のため、死の物狂いで命をかけて戦ってきた。多くの犠牲を承知で……平和な世界を夢見て」 ダリウスは自分の両手を見つめた。 「……だが、戦いが終わり平和になったこの世界で俺に残されたのは、なんだ。すべてが終わったら勝利の酒を飲もうと約束した友も、もういない。酷使した体は以前のように動いてくれず、戦士としての存在価値も失った。自分はなんのために生きているのかと、考えてしまう日だってある」 ダリウスはそう言って、自嘲した。 「情けない話だろう。……英雄と称えられた男が、こんな弱気で」 その言葉に、リリスはダリウスからそっと離れた。 「情けなくなんか、ありません……」 ダリウスが振り向くと、そこには瞳いっぱいに涙を溜めたリリスがいた。 「情けなくなんか、ありません」 今度は真正面からそう言って、リリスはダリウスに抱きついた。ふわりと香る花の香りがダリウスの鼻腔をかすめる。 「……確かに、この平和な世界を築くまでに、これまで多くの犠牲がありました。ダリウス様が亡くした仲間や友の数も、きっと私が思っている以上に多いでしょう。なぜ助けられなかったかと、後悔することもあるかもしれません。……ですが、それと同時に、あなたは多くの命も救ってきたのです」 リリスはそう言うと、ダリウスの目をじっと見つめた。 「だから、そんなに自分を責めないで。あなたは、特務騎士団の皆さんは……我が国の誇るべき英雄なのですから」 涙まじりに微笑んで、そう言ったリリスにダリウスは目を見張った。そして、差し伸べられる手。ダリウスは、その手を見つめ躊躇した。この手をとっていいのだろうかと、まだ迷っていたからだ。 「ダリウス様」 すると、頭上から、やさしげな声が聞こえた。顔を上げれば、リリスがダリウスの頬にそっと手を添えて、にこりと微笑んでいる。そして──。 「私と……幸せになりましょう」 静かに、そう言った。 「自分は無価値だと悩んでしまう時も、悪夢にうなされて苦しむ夜も、私がずっとダリウス様のそばにいます。あなたの弱さも、脆さも全部抱きしめて、そっと隣に寄り添います。だから──」 もう片方の手で、ダリウスの手をギュッと握りしめたリリス。静かなこの教会の中で、清らかなその声だけがダリウスの耳に届く。 「だから、私と、幸せになりましょう」 握られたその手を、そっと握り返せば、確かな温もりが感じられる。 「……いい、のか。こんな俺が、幸せを手にして」 ダリウスがそう言うと、リリスはやっぱりやさしく微笑んでくれる。 「きっと……亡くなった特務騎士団の皆さんも、あなたの幸せを願っていますよ」 「それとも、あなたの不幸を願うだなんて、そんな心の狭い方たちでしたか?」と続けて問われれば、答えはすぐに見つかった。どうして、そんな簡単なことに気づけなかったのだろう。 「……いいや、そんな奴らじゃなかった」 やさしく笑うリリスの頬に、ダリウスが手を伸ばす。流れる涙をそっと拭えば、まっすぐで穏やかな瞳と目が合った。初めて会った日、ダリウスはリリスに、この先一生愛することはないと宣言した。けれど──。 「リリス」 名を呼び、腕を引いて抱き寄せると、こみあげてくる思い。 ダリウスは感情のままにその唇に口づけ、リリスを強く、強く抱きしめた。満たされていく心。頬を伝う涙は止まらず、キャンドルが灯る教会の真ん中で、二人は互いの存在を確かめ合うように、何度も何度も口づけを交わした。
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