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それからひと月半。リリスが結婚の話を聞かされてから、ほんの少しというわずかな準備期間で、リリスとダリウスの結婚式が開かれることになった。
支度部屋では朝から念入りに準備が行われ、リリスは大勢の侍女たちによって美しくて飾り立てられていた。純白のドレスに身を包んだ主人の姿に、みな思わず感嘆の声を漏らす。
「お綺麗ですよ、リリス様!」
ルーナが目を潤ませながら近づいてくると、リリスは鏡越しに「大げさなんだから」と笑う。すると、
「お世辞なんかじゃありません!」
「そうです、リリス様!とっても素敵です!」
「いつもお綺麗ですけど、今日は一段とお綺麗ですよ!」
椅子に座るリリスに詰め寄り、口々に熱っぽく語る侍女たち。彼女たちもルーナと同様に、瞳を潤ませていた。そんな様子に目を丸くして驚いていたリリスだが、それからすぐに目を細めて笑う。
「もう、泣かないの」
リリスが頭を撫でてなだめてやると、侍女の一人がついに泣き出してしまった。
「だ、だって、私たちはリリス様にはついていけないんですもの……っ!」
「私も、リリス様のおそばを離れたくありません……っ!」
「私もです!」
彼女たちの言葉に、リリスは困ったように笑いながら一人一人の顔を見た。寂しくなるのは、リリスとて同じだ。
「ごめんなさい。本当はみんな連れていってあげたかったんだけど、ルーナひとりしか許されなかったから……」
父親に願い出てみたものの、結局オフィーリアによってそれも阻まれてしまった。今後、リリスの身の回りのお世話は、ルーナと、嫁ぎ先であるクロフォード家の使用人たちにお願いすることになるらしい。すると、今度はルーナに詰め寄った侍女たち。
「ルーナ、しっかりとリリス様をお守りするのよ!」
「あなただけが頼りなんだから!」
「わかってますよ!一番長くリリス様のお側にいるのは私ですよ」
「ああ、でもルーナっておっちょこちょいなところがあるから心配だわ……!」
「し、失礼な!」
そんなやり取りをする侍女たちに、リリスもふと頬を緩めた。知らぬ間に緊張していたことに気づいたが、彼女たちのおかげで心は少しばかり軽くなった。
「困ったことがあれば、いつでも便りを送ってくるのよ」
にこりと微笑めば、「「「はい、リリス様!」」」と元気のいい返事が返ってくる。
と、そのとき。コンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。「はい」とリリスが返事をすれば、扉の向こうから「ダリウス様がいらっしゃいました」との声。途端に、部屋中に緊張が走る。リリスは侍女たちに目配せをすると、「どうぞ」と返事を返した。
まもなくして、重厚な扉がゆっくりと開く。緊張する胸を抑えて扉の向こうをじっと見つめると、そこに現れた男の姿に息を飲む。
黒の短髪に、切れ長の瞳。花嫁と揃いの白の軍服に身を包んだ男、ダリウス・クロフォードがそこに立っていた。
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