エピローグ

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「すごい盛り上がりですね」 雲ひとつない快晴の今日、ダリウスが住まう領地では豊穣祭が行われていた。みなこの日を楽しみに準備に勤しみ、今日は朝からあちこちがお祭り気分で賑わっている。リリスの隣に立ったダリウスは「年に一度の大祭だからな」と続け、同じように街の様子に目を向けた。 あちこちから聞こえてくる笑い声。広場を駆け回る子どもたち。穏やかな青い空。何気ない、そんな景色が、それがとてもかけがえのない、尊いものに映って見える。 「ねえ、ダリウス」 ダリウスの横顔を見つめていたリリスは、手のひらをぎゅっと握りしめて夫の名を呼んだ。ダリウスが視線をそちらに向けると、まっすぐ前を向いたまま「私、この国をもっといい国にしたいと思います」と、そう言うリリス。 「魔獣の脅威がなくなったとはいえ、まだまだやるべきことはたくさんあります。その『やるべきこと』をやらねばらない今の王政は、腐敗していて民は苦しむばかりです。それを分かっていながらも、力のない私にできることなど少ないと思っていましたが──」 リリスはそう言うと、ダリウスの方を向いた。 「私は私にできることをやっていきたいと思います。……これからも、あなたと一緒に」 その言葉に「そうだな」と返すと、リリスの肩に手を伸ばして自分の方へと引き寄せるダリウス。ふと視線を落とせば、リリスのやさしげな瞳と目が合った。 「だから、これからもずっと、私の側にいてくださいね」 はにかむように笑う妻に、愛しさが込み上げる。ダリウスは、改めてリリスに向き合うと手を取った。 「ああ、誓おう。死が二人を分かつまで、永遠に……ずっと側にいると」 そう言って、手の甲にキスを落としたダリウスに、リリスも嬉しそうに微笑んだ。すると──。 「ヒューヒュー!いいね、お二人とも!」 「見せつけてくれるねぇ!」 見つめ合っていた二人の耳に、そんな声が聞こえ、周囲を見渡すと大勢の人々の視線が刺さる。見られていたのかと思うと、少し恥ずかしい気持ちになったリリスだったが、みんなに「ありがとう」と手を振り返す。 ルーナは「よかったですね、リリス様!」と号泣しており、その隣ではいつもは飄々としているクロードまでも「ダリウス様、どうかお幸せに!」と泣いていた。 「……二人とも、随分酒を飲んだみたいだな」 「俺は止めたんですけど、アベルさんとマチルダさんが『まあ、いいじゃないか』って酒がなくなるたびに注ぐもんだから」 仕方ないなと言わんばかりにため息をついたダリウスに、ノエが笑いながらそう耳打ちした。 「リリス様」 腕にひっついて号泣するルーナをなだめるリリスの元へやってきたのは、いつも掃除や洗濯を手伝ってくれるユーリを含めた使用人たちだった。 「これ僕たちで作った花冠です!どうぞ」 色とりどりの鮮やかな花で彩られた冠に、リリスは「まあ」と声をあげた。 「素敵な花冠ね。私がもらってもいいの?」 「リリス様のために作ったんです。日頃お世話になってるから、プレゼントにと思って」 「嬉しいわ、ありがとう」 リリスが少しかがむと、ユーリが代表で冠を頭に乗せてくれた。 「とってもお似合いです!」 「綺麗ですね、リリス様!」 「ダリウス様も、そう思いますよね?」と、一人がそう問いかけるので、リリスはダリウスの方に向き直った。アッシュグレーの瞳と目が合う。初めて会ったときには、嫌悪感を浮かべ睨みつけるようにリリスを見ていた目だが、いまは違った感情が浮かんでいた。 「ああ、綺麗だ」 胸の奥に響くような低い声。聞こえてきた言葉にリリスは頬を緩めると、そのままダリウスの腕の中へと飛び込んだ。しっかりと抱きとめられ、リリスがふふと嬉しそうに笑えば、やさしい眼差しが降り注ぐ。 「私、あなたと結婚できて幸せです」 その言葉に応えるようにダリウスはリリスの頬に手を伸ばす。 「俺も、この上なく幸せだ」 ダリウスはそう言うと、そのままリリスに顔を近づけ、掠めるようなキスをした。 この上ない幸福感。 大きな歓声に包まれながら、祝福された今日のこの日をリリスは一生忘れないでおこうと思った。 英雄の花嫁〜傷だらけの英雄は城を追い出された王女と幸せになる〜 【完】
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