飛びながら

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飛びながら

 ヒラ ヒラ  空を飛ぶ私。    今年私は卵からかえって、柑橘の葉っぱを食べて少し大きくなった時に、柑橘の葉っぱから引きはがされた。そうはいっても2cm位だったのだが。 「わっ!ちょっとぉ。毎日見ていたのに、こんなに大きくなった幼虫がいるぅ。」  この家の奥様が泣き声でいう。 「わっ!俺、この大きさは無理。軍手軍手。」  この家の旦那様も柔らかい虫が苦手という事で、泣きそうだ。  二人でそろそろと、私が乗っている葉っぱごと、木から離した二人は、潰さないようにそっと運んで、自分の家の庭の外に私を投げた。  少し大きいと潰すのが怖いらしい。ラッキー!  ぴょ~~~~ん。結構な距離を飛んだ私は、運よく、そのお家の外の柑橘につかまることができた。公共の木で、とても大きいので私一匹位が、葉っぱを食べても大丈夫。実は沢山の仲間が毎年ここから巣立って、近所の柑橘にもお出かけしているのだけれど。  私はその後は外の木で育って、蛹になり、羽化して、いもむしからアゲハ蝶になった。  ヒラヒラ ヒラヒラ 私はようやく飛んでいるけれど、もう、今年は卵を産むのには遅い。  私はもうじき死んでしまうけれど、来年はまたどこかから私の仲間があのお庭に飛んで行って、柚子とレモンの葉っぱをいただくことになりそうね。  そんな風に思って空からお庭を見て暖かい昼間の日差しの中を飛んだわ。  お日様が沈むととても寒くて、もうじき私は飛べなくなる。  でも、私の仲間は卵の時に見つかって、葉っぱからはがされたり、生まれたての1mm位の友達は葉っぱから軍手でとられるときにつぶれてみんな死んじゃったから。  ちゃんとアゲハ蝶になれた私はとても幸せなのよ。  ヒラヒラ ヒラヒラ  アゲハ蝶には化けられたけれど、次はもっと大きなものに化けたいわ。  アゲハ蝶は綺麗だけれど、あまりに儚い命だわ。  ヒラヒラ ヒラヒラ  ヒラヒラ  ヒラ  【了】  
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