丑三つ時

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丑三つ時

 ある晩、犬塚剛志は自宅でひとり静かに煮卵を作っていた。しかし、突然玄関のドアがこじ開けられる音が聞こえた。彼は警戒しながら玄関へと向かい、そこには黒いマスクを付けた強盗が立っていた。 緊張したままの犬塚剛志は、強盗との間に広がる沈黙を破るために、彼に何が目的なのか尋ねた。「何が欲しいんだ?」彼が問いかけると、強盗は冷静な口調で答えた。「丑三つ時にある場所の秘宝が欲しい。それを教えろ。」 犬塚剛志は驚きながらも、自分が知っている情報は歯科医の近くにあると答えた。強盗はそれを聞くとさっそく行動を開始し、犬塚剛志を人質に取って彼を案内させた。 二人は急いで歩き、歯科医の待合室に辿り着いた。そこで週一回、丑三つ時に行われる将棋の試合が行われていることを知った。棋士たちは鮮やかな手筋を交えながら、妙な安寧を感じさせる様子で対局を続けていた。 強盗は棋士たちの中に秘宝が隠されていると確信し、彼らに銃を突きつけた。「秘宝を教えろ!さもなくば…」 しかし、棋士たちはゆっくりと上目遣いで強盗を見つめ、微笑むと一斉に頭を下げた。「すでに貴方の手にはないのですよ。それは失われてしまったのです」と、棋士の一人が穏やかに言った。 驚く犬塚剛志と強盗に対し、棋士たちは秘宝の過去と伝説を語りはじめた。それは歯科医によって作り出されたという、人々の歯の痛みを和らげるという力を持つ特別な煮卵だったのだ。 しかし、その煮卵はあまりにも強力で、多くの人々がその効果によって不老不死の力を手に入れようとした。結果として、力を得た者たちは醜い姿に変わり果て、丑三つ時にその姿を現すといわれていた。 強盗は絶望し、目の前の棋士たちは昔の煮卵を作っているわけではないと知りながらも、彼らから目を離さなかった。そして、犬塚剛志はその一部始終を目撃し、丑三つ時の恐怖と秘宝の真相に直面することとなった。
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