95人が本棚に入れています
本棚に追加
何だか思わせぶりに、僕の予定を訊いてきた彼女。男なら期待しないわけがなかった。ましてや、その相手が意中の人ならば。
「よかった☆ じゃあ、ちょっとあたしに付き合ってくれない? 一緒にゴハン行こ。あたし奢るから」
「え…………。あー、うん。別にいいけど」
「あ、オレは遠慮しとくわ。お二人でどーぞ☆」
「……………………はぁっ!? ちょっと待て! 久保っ!?」
僕は困惑した。久保も交えて三人なら、僕も一緒に食事くらいは大丈夫だと思ったのだが。いきなり二人きりはハードルが高すぎる。
「ままま、キリちゃん。よかったじゃんよ、彼女の方から誘ってもらえて。お前から誘う勇気なんかなかったべ? これは降ってわいたチャンスだべ。行ってこい!」
そんな僕の肩をひっつかみ、久保が出身地である千葉の言い回しで囁いた。というか、「キリちゃん」なんて気持ち悪い呼び方するな! お前、そんな呼び方したことないだろ!
「お前だって、それでもいいって思ってたべ?」
「……………………あー、まぁ。そりゃあ……な」
なまじ図星だっただけに、否定できないところが悲しかった。
「ほら、行ってこい!」
彼に肩をポンポン叩かれ、僕は彼女との夕食に臨んだのだったが――。
「――で、なんで俺のこと誘ったんだよ?」
彼女と二人で焼肉をつつき合いながら(色気ないな……)、僕は首を傾げた。
「あのさぁ、桐島くん。あたしたち、付き合わない?」
「……………………は? 今なんて?」
「だからぁ、『付き合おう』って言ったんだよ。――あ、ここのハラミ美味しい♪」
「…………」
何の気なしに言い、無邪気に肉を頬張る彼女を僕は呆気に取られながら見据えた。
「だってお前、彼氏いるんじゃ……。どっかの会社の御曹司だっていう」
「うん、いるよ。でもさぁ、彼氏って何人いてもよくない? もしかしたら、その中で桐島くんが本命に昇格するかもしれないじゃん?」
「…………はぁ」
よくもまぁ、そんな小悪魔ちゃん発言をいけしゃあしゃあと。――今の僕ならそう言えたかもしれないが、その当時の僕には言えなかった。少し期待していたからだ。
「あたし、桐島くんとは相性めちゃめちゃいいと思うんだよね。桐島くんもあたしに気があるんでしょ? だったら、そっちにも損はないと思うな」
――という言葉にまんまと乗せられ、僕は日比野美咲の彼氏第2号となったわけだが、結局彼女は本命の男と結婚して会社も辞めてしまった。僕は彼女にあっさりと捨てられたのだ。
これが、僕のトラウマの全貌である。
最初のコメントを投稿しよう!