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「……………………は? 課長、今何とおっしゃいました?」
課長の言葉に、僕は自分の耳を疑った。残業ではないが、いくら何でもそれは押しつけが過ぎやしないだろうか。
「だから、私の代理で今夜のパーティーに出てくれと言っとるんだ。頼む」
「…………いえ、あの……。それはいくら何でも……」
「断るのか? 上司である私の頼みを。君は断れんよなぁ?」
「…………えーと。都合が悪いとおっしゃるのは」
もう半分以上は脅しになっていた課長の威圧感に、僕はタジタジになった。
「ちょっと、たまには家族サービスをな」
「…………はぁ」
ウソつけ、本当はゴルフの打ちっぱなしだろ! と内心毒づきながら、僕は引きつった笑いを浮かべた。何だか納得がいかない。
課長がゴルフにハマっていたことは、総務課の人間なら誰でも知っていたが、「家族サービス」とウソをついてまで会長のお誕生日よりも自分の趣味を優先するなんて一体どういう神経をしているんだ?
とはいえ、僕が折れないことにはこの話は終わらなかったので。
「…………分りました。僕でよければ代理を務めさせて頂きます」
「そうかそうか! じゃあ頼んだよ、桐島君。会長によろしくお伝えしてくれたまえ」
「……………………はい……」
僕が渋々承諾すると、課長は満足げに僕の肩をバシバシ叩いた。どうでもいいが、ものすごく痛かった。
「――お前、なんで断んなかったんだよ?」
自分の席に戻ると、隣の席から久保が呆れたように僕に訊ねた。
「俺に断れると思うか? つうか、そんなこと言うならお前が代わりに行ってくれよ」
「そう思うならさぁ、お前もオレに助け船求めりゃよかったじゃん。――まぁ、求められたところでオレなら断ったけどな」
「なんで? 彼女とデートか?」
久保が彼女持ちだと知っていた僕は、思いつく理由をぶつけてみた。
彼も僕と同じく女子からモテていたのだが、それを迷惑に思っていた僕とは対照的に、彼はそのことを自慢にしていた。彼女は確か、ウチの営業事務の女子じゃなかっただろうか。
「おう。帰り、一緒にメシ行くことになってんだ♪ お前もさぁ、いい加減新しい彼女作れよ。そしたら人生楽しくなるし、課長からの無理難題も回避できるべ?」
「……もういい。お前には頼まねーよ」
この時の僕は、出たくもないパーティーに強制出席させられることにただただウンザリしていた。まさかこの後、僕のその後を変える運命の出会いがあるとは知らずに――。
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